1ページ目から読む
2/2ページ目

僕は「最強西武の山賊打線」という幻影にとらわれていた

 3回までは凪(なぎ)が続いた。0対0。ニールは崩れそうで崩れない。一方、有原は一分の隙もないピッチングだ。練習試合で3割近いチーム打率を残した西武打線を沈黙させていた。が、ちょっと完璧すぎるかなとも思った。目いっぱいぱんぱんに張った風船のような感じだ。ベストピッチすぎて何かの拍子で破裂しそうな怖さがある。「相手を寄せつけない快投」が最後まで続けばいいけど、相手が寄りついて来たとき、例えばたった1つの四死球のようなきっかけでペースを乱すことがあり得る。

 それが4回裏に起きた。きっかけはスパンジェンバーグのセンター返しのクリーンヒットだった。絶対殺しておきたいキーマンに仕事をさせてしまった。ムードが変わる。続く源田壮亮もライトへヒットを放ち、無死1、2塁。有原は次の3番・森をギアを上げて抑えにかかる。スイスイ行ってた3回までと顔つきが違っている。有原vs森は見応え十分だった。森がまたツーシームを見極めるんだよね。四球で歩いた。無死満塁で4番・山川だ。どうしたらいいだろう。最悪のシナリオだ。どすこーい。もう僕はほとんど思い浮かべていた。ダイヤモンドを1周した山川穂高が満面の笑みで無人のレフトスタンドにどすこーい!

 で、実際はどうだったかというとカウント1-2からボテボテのサードゴロだった。マン振りしたからサード野村佑希(開幕スタメンの大抜擢!)の判断がちょっと遅れて、オールセーフの内野安打になってしまった。続く外崎修汰にはユニホームをかすめるデッドボール。この時点でスコア0対2。ようやく木田コーチがマウンドに行き、ひと呼吸あって、次の中村剛也は三振(満塁に強いからホントに怖かった)。その後、栗山巧サードゴロで走者が帰り、0対3。木村文紀凡退でようやくチェンジ。

ADVERTISEMENT

 よく考えたらこんなの山賊の仕業じゃないだろう。ボテボテのタイムリー内野安打、死球押し出し、サードゴロのゴロGO!の合計3点。有原はどうかわからないんだけどね、少なくとも僕は「最強西武の山賊打線」という幻影にとらわれていた。隙を見せたら終わりだ、やられると思い過ぎていた。騙された。ひっかけ問題だ。特にマン振りした山川穂高のパスッという感じの当たり。バントみたいに打球が死んでるんだよ。あれで先制点取られたときはヒザの力が抜けた。

 野球はわからない。僕はあのパスッという当たりで点取られたとき、野球が帰ってきたと感じた。これだよ、これこれ。この得体の知れなさだよ。

 おかえり僕の野球、僕のパ・リーグ。

 読者よ、開幕あけましておめでとう。あんなに待ち焦がれても始まってしまえば「おい、何だこれ」「マジかよ」の連続だ。もちろん野球というのは思い通りにならないものだ。開幕シリーズ、ファイターズは2勝1敗で勝ち越したから、僕はわざわざビミョーな3失点で負けた試合を取り上げたことになる。だけど、あの山川の内野安打がいちばんリアルベースボールだった。今年も始まったぜ!!

野球ファンの皆さん、開幕あけましておめでとう! ©フミオさん

◆ ◆ ◆

※「文春野球コラム ペナントレース2020」実施中。コラムがおもしろいと思ったらオリジナルサイト http://bunshun.jp/articles/38517 でHITボタンを押してください。

HIT!

この記事を応援したい方は上のボールをクリック。詳細はこちらから。