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「いいリーダーって、信じて任せるんだよ」

 目を疑った。采配のことはよくわからない、よくわからないけど、これ、全て私には「選手が悪い」と、そう読めてしまう。「選手のミスを責めるなら、自分の采配が上手くいかなかったことも反省しなきゃフェアじゃないよな」。ファンじゃないと言いながらネットニュースをチェックしていた夫が神妙な顔で頷いた。

「なんでだと思う?」。私は思わず夫に聞いた。「去年までは、少なくともそんなこと言わなかった、ラミレス監督は。どうしちゃったんだろう」。怒りというより、なんか怖かった。かつて「理想の上司」と言われていた人が、急に人が変わったように、今は選手に責任を負わせている。そんなことあるの? 

「焦ってるんだと思う」「今年は優勝以外ない、単年契約っていうのもあるんだと思う」。夫は暫く考えて、静かにそう言った。「結果を出さなきゃ、結果を……ってなると、周りが見えなくなるっていうのあると思う。俺だってそうだよ」。あまり家で会社でのことを話さない夫が、絞り出すように言った。

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「俺も少し出世して、部下もできて、最近わかったんだよ。いいリーダーって、信じて任せるんだよ。得意なことを得意な人に。で、その責任は自分が取る。そういうめちゃめちゃ損な役回りをできる人が、リーダーなんだろうなって」。俺それ出来てないけどね、夫は誤魔化すように笑った。

 私だって言ってしまうかもしれない。子供が何かしてしまった時「親の教育がなってない」と決めつけられたら、言い訳してしまうかもしれない。誰かを信じて任せて、その責任は自分が取るというのは、言うほど簡単なことじゃない。

「またお前はそうやって大袈裟に考える、本当のことなんてファンにはわからないよ」と夫はたしなめるけど、それは違うと思った。うまく言葉には出来ないけど、チームに漂っている空気みたいなものに、外側からしか見られないファンは一番敏感だ。私なんかが心配したところで何にもならないのに、でもやっぱり、考えてしまう。選手がのびのびと野球をしてくれる以上の願いは、私にはないから。

 野球は、でこぼこな人間が9人も揃ってやるから面白い。それを監督するのもジャッジするのも人間だから面白い。もしかしたら、ラミレス監督は初めて私たちに「人間」の姿を見せているのかもしれない。いつもポジティブにはなりきれない、私たちは、人間。だけど人間だから、人間に頼ったり助けや救いを求めたりできる。

 お日様の匂いを含んだ洗濯物はまだ少し温かく、乾燥機よりもパリッとして清々しかった。私は、小さな青いTシャツに書かれた“Baystars”のロゴをキュッと伸ばして畳む。明日はまた、別の一日。

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