なんだかんだ言って、やっぱりプロ野球がある日々というのは、いいですね。自粛期間中、プロ野球はもとよりスポーツを含むほぼ全てのエンターテインメントはなくなりました。その日々が続くと、スポーツやエンターテインメントの価値や存在意義とは何なのかということを考えるようになりましたが、実際に始まってみると分かります。選手たちの真剣勝負、磨き上げられた技、二度と同じプレーが生まれないという芸術性の高い側面は、観るだけで心にある何かが動き出します。そこに理屈はなく、ただ好きだから応援する、ただ観たいから観るという、純粋で根源的な欲求が、私たちにスポーツやエンターテインメントの必要性を問いかけてきます。全く前例のない中で開幕までこぎつけた関係者の方々の奮闘に心から感謝します。
さて、無観客試合のプロ野球というのも、一生のうちでそう何度も見ることがありません。いまだに不思議な感じがしますが、なんと言っても「音」を楽しめるという点でこれ以上の環境はありません。今日は、プロ野球の試合で響く、「音」について世界を深めていきましょう。
無観客の今だからこそ楽しめる「音」
まず、バッテリー間に流れる音。横浜ファンであれば、リードして9回を迎えると山﨑康晃がマウンドに上がることを知っています。ところが、投げる時にヤスアキがあんなにも声を振り絞って投げていたことは、知らなかった人も多いでしょう。プロテニスの試合などでは、選手が力を出す時に声を出すことは広く知られています。観客が入ってもプレー中は静かにするのがマナーで、故に選手の声がよく聞こえるんですね。野球も同様で、声を振り絞って力を出す選手は結構います。バッターにもスイングの際に声が出る選手がいますが、多くは打球音でかき消されるので聞こえません。ピッチャーの場合はよく聞こえます。これを機に、どのピッチャーの声がお気に入りかを探してみてもいいかもしれません(相当マニアな見方になりますね)。
あと、これはテレビでは拾えない音声ですが、実際にプロのピッチャーの投げるボールを真横で見ると、ボールが回転して空気を切り裂く音が聞こえます。ピッチャーによっては、リリースする瞬間のボールを弾く音もかなり響きます。あの音を聞くと、爪が割れたりマメが潰れたりというのも納得します。ものすごい強い力が指先に集中しますから、そりゃ爪ぐらい割れるわな、という気持ちになります。
一方、キャッチャーの音はどうでしょう。これはなんと言ってもキャッチャーミットに入る音でしょう。特にドーム球場の場合は、射撃音に近い音が炸裂します。ストレートの見逃し三振で音が響いた時、日常のストレスもろとも消し去ってくれるような爽快感がありますね。観客がたくさん入って、なおかつ鳴り物がなっている球場ではあまり聞けなかった音ですから、キャッチャーには余計なプレッシャーがかかっているかもしれません。今までは捕るだけでよかったものが、音を出さないといけませんからね。
あと、キャッチャーが感じているであろう、これまでになかった気遣いでいうと、コースに構えるときの自らの音でしょう。サインを交換した後に早く動きすぎると、音でどのコースに構えたかがバッターにバレてしまう。ところが、動くのが遅いとピッチャーに的を示せなくなる。この辺りの動き方は、無観客ならではの配慮。神宮球場では「キャッチャーがインコースに構えた」という放送の実況が選手に丸聞こえだったということも起こりましたから、バッテリーはバッターに音で勘付かれない工夫が必要になりますね。
バッターの音はどうでしょう。もうこれは言わずもがな、打球音。先ほどキャッチャーの捕球音が射撃音に近いと述べましたが、打球音はそれを超える音です。実際にあれだけの音が響いていることは、無観客になって初めて分かります。音を聞き分けられる“通”になると、芯に当たったのか詰まったのかを聞き分けることができます。そうすると、「この柳田(SB)のホームラン、詰まったのによくスタンドまで届いたな~」なんていう会話が可能になります。「えっ、なんで詰まったのが分かるの?」と聞かれたら、「音でわかるでしょ、音で」と返しましょう。無観客の今しか使えないマウントトークです。
打球音の中でも、バットが折れる音がまた味わい深くていい。これにも2種類あり、バットの先に当たって折れる音と、根本に当たって折れる音は違います。実際にどう違うのかは、ぜひ自ら探り当ててみてください。バットが折れるシーンというのはそう多くはありませんから、聞けること自体がラッキーですので、これを聞き分けられる人は相当な“通”となります。