世間の注目を集めた木下優樹菜の引退劇。これほどまでの反響を呼んだ背景に「日本社会におけるハラスメントの構造および潜在的な不満が噴出した一面もある」と指摘するのは『屁理屈に負けない!――悪意ある言葉から身を守る方法』(扶桑社)などの著書がある「慶應丸の内シティキャンパス」シニアコンサルタントの桑畑幸博氏だ。
一連の騒動から見えてくる、日本の生産性が一向に上がらない根本的な原因とは?
“事務所総出で”が反感を買ったわけ
“議論ウォッチャー”としてネット上のコメントなどをチェックしていると、今回の引退劇でもっとも多く目にしたのが「『事務所総出でやりますね』と恫喝しておきながら、謝罪も解決もないまま復帰するのは許せない」という声です。
そもそも一連の騒動の大炎上は、この“事務所総出”という文言のインパクトと拒絶反応の大きさに起因しているのは、間違いないところでしょう。すっかり悪者になっている彼女ですが、もともとはインスタグラムのフォロワーが500万人を超える“超人気者”。そんな彼女でも、この一言で風向きががらりと変わってしまいました。
嫌悪感を覚える理由
では、なぜそれほどまでに私たちはこの言葉に嫌悪感を覚えるのか?
「事務所総出」の5文字には、私たちが仕事や生活のなかでしばしば直面する「脅迫論証」と「権威論証」という2つの言葉の暴力が使われているからです。
「脅迫論証」とは、パワハラ上司の決め台詞である「俺の言うことが聞けないんだったら辞めてもらうしかない」といった発言です。この台詞のどこが卑劣かというと、冷静に考えれば指示に従わなくても社内規定に照らし合わせて辞める必要などないのに、あたかも「従うか辞めるかの2つしか選択肢がない」ように錯覚させ、相手を服従させようとする点にあります。