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木下優樹菜引退 なぜ「事務所総出で」は挽回不能なまで反感を買ったのか

騒動から見えてくる、日本の生産性が一向に上がらない根本的な原因

2020/07/17

「ここで土下座しなかったら社長にクレームをつけるぞ」とか「私の診断に異論があるなら退院してもらって結構」といった発言も同様。前者はカスハラ(カスタマーハラスメント)、後者はドクハラ(ドクターハラスメント)と呼ばれるものです。この脅迫論証は、各種ハラスメントやヘイトスピーチと親和性が高く、とにかくマウンティングをしたがる人が頻繁に使用する傾向があります。

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権威に頼る自信のない人々

 一方、「権威論証」とは誰かの肩書や社会的地位に頼って“他人の褌で相撲を取る”ことで自分の主張を押し通そうとする言葉の暴力です。部下からの疑問や意見を「上がそう言っているのだから従え」と突っぱねる上司や「大学教授がこう言っていた」とデマに近い風説を拡散してしまう人などがよく使用します。今回の“事務所総出”も、当事者ではない第三者である「事務所」の権威を借りて自分の主張を押し通そうとしました。

 

 自分の考えや主張に根拠や自信がないから、誰かの権威を頼る。強気に見えて、実は非常に姑息で卑怯なやり方です。

 この権威論証は非常に危険で、例えば東日本大震災とそれに伴う福島第一原発の事故のとき、ある大学教授が「福島産の農作物を勧めるのは殺人と同じだ」とTwitterでつぶやき、瞬く間にそれが拡散しました。はっきり言って、それは単なるデマです。しかし、多くの人が大学教授という肩書にだまされ、非科学的な主張をリツイートし、福島県の農業は甚大な風評被害を受けることになりました。

屁理屈が日本の生産性を劇的に低下させる

 このように姑息で卑怯な言葉の暴力である「脅迫論証」と「権威論証」を同時に含む“事務所総出”の5文字によって爆発的な反感を買った今回の一件。

 裏を返せば、私たちの周りにそうした「言葉の暴力=屁理屈」が蔓延しており、潜在的な不満が溜まっていたことの証ともいえます。

 そして、このように脅迫論証や権威論証といった屁理屈が蔓延する社会では、健全な議論ができなくなり、生産性が劇的に低下することになります。