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「君の名は。」「逃げ恥」が高齢童貞・処女を救う

サブカルスナイパー・小石輝の「サバイバルのための教養」

2017/09/02

結婚と就職を同時にゲット

 そんなみくりは父親から、知人のコンピュータープログラマー・津崎平匡(ひらまさ)(星野源)の自宅で家事代行の仕事をするよう勧められる。数カ月たち、仕事に慣れてきた所で、同居していたみくりの両親が田舎に移住することに。みくりは「契約結婚をして、住み込みで家事代行の仕事を続けさせて欲しい」と平匡に懇願。平匡も同意し、奇妙な同居生活が始まる――。

©時事通信社

 家事代行の仕事を続けるだけのために、好きでもない相手と契約結婚をし、両親や友人を欺き続けるなど、現実にはあり得ない。だが、こうしたむちゃな設定を導入することで、主人公のみくりは、結婚相手と就職先という「二つの居場所」を同時にゲットする。

 つまり「君の名は。」と「逃げ恥」は、「異性から求められること」と「社会から求められること」の両方が「ありえない設定により同時に実現する」という点で、極めてよく似た物語構造を持っているのだ。

 ただし、「逃げ恥」は契約結婚という初期設定を除けば、二人の関係の進展自体はリアルで自然だ。

 漫画での平匡は36歳で童貞。みくりも男性経験は一人だけ。恋愛下手な男女が一つ屋根の下で暮らすことで次第に理解し合い、恋愛感情が芽生えていく。これは現代的な「お見合い結婚」とも言えるだろう。

 そう、現代の恋愛下手な若者たちが憧れるのは、かつてのトレンディードラマのような、自由で洗練された恋愛などではない。あらかじめ枠組みを設定された上での「ぎこちなくも初々しい純愛」なのだ。

 これを「若者たちの甘え」と切り捨てるべきではないだろう。日本に急激な少子化をもたらした主因は、結婚できない男女が急増したことにある。冗談抜きで、若者たちの恋愛下手を放置すれば、日本の存亡にも関わりかねない。

「社会にとって必要とされたい」というもう一つの根源的な欲求についても、若者たちの前には大きな壁が立ちはだかる。非正規雇用の割合は今や4割を超え、みくりのように「大学院を出ても就職できない」若者は珍しくもない。

©文藝春秋

 ドラマ版「逃げ恥」の終盤、ようやく相思相愛の仲になった直後に、平匡は「契約結婚ではなく本当に結婚すれば、今までみくりに払っていた給与分を生活費や貯蓄に回せて合理的」とプロポーズ。だが、みくりは「結婚すれば、私をただで使えるから合理的。そういうことですよね。それは愛情の搾取です!」と反発する。みくりの本音は「結婚は永久就職」「愛さえあれば」というナイーブな楽観主義でなく、「私には愛も仕事も必要」というまっすぐなリアリズムだ。

 こうした真っ当な欲求を自力でかなえるための、現実的な道筋が極めて見えづらくなっている。それは若者たちの自己責任ではなく、社会全体の課題として捉えるべきだろう。「君の名は。」「逃げ恥」のヒットは、若い世代からの切実なSOSでもあるのだ。

INFORMATION
©2016「君の名は。」製作委員会

「君の名は。」
発売元・販売元:東宝
発売日:2017年7月26日
価格:DVD スタンダード・エディション 3,800円+税

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