コロナ禍による不動産マーケットへの影響については、ホテルなどの宿泊産業や商業施設の惨状を報じる声が多い。だが、ホテルも商業施設も、新型コロナウイルスという感染症が終息すれば、回復までに時間を要しながらも持ち直していくものと考えられる。人が移動をする、食料品やモノを購入するという行動は、一部カタチを変えても残っていくものだからだ。
ところが一連のテレワークを通じて、多くの勤労者が通勤をせずともかなりの仕事ができることを知ってしまったことで、オフィスのあり方については、今後大きなマインドシフトが生じてきそうだ。コロナ禍は、政府が唱えてきた働き方改革など及びもつかない、「働き方革命」をもたらした可能性が高い。
オフィスビルマーケットは絶好調だった
オフィスビルマーケットは五輪が開催される予定の東京都区部のみならず、名古屋、大阪を加えた三大都市圏から地方四市(札幌、仙台、広島、福岡)でも20年前半まで絶好調をキープしてきた。20年6月現在、各エリアの空室率は東京(都心5区)で1.97%、名古屋2.83%、大阪2.46%と極めて低い水準が保たれている。この傾向は地方都市も全く同じで、同時期のデータを拾うと、札幌2.03%、福岡2.46%など軒並み2%台の水準にある。
オフィスの空室率は一般的には4%が貸手・借手の分水嶺と言われる。つまり4%を超えると賃貸借の条件交渉などでは俄然テナント側が優位に立てる、4%を切るとビルオーナー側が強気になる、そんな水準なのだ。
この物差しでみると、日本の主要都市はどこもオフィスは貸手市場ということになる。特に空室率が2%台になると、テナントはほぼ身動きができない状況に陥る。つまり、あるテナントが業容拡大などで、もっと広い大きなビルに借り換えようと思っても、マーケットには適当な物件がないという状況にあるのだ。
オフィスのスリム化は避けられない
今回のコロナ禍では、すでに業務の大半をテレワーク化して、余分となったオフィス床を減らしていこうという動きが一部で顕在化している。そのいっぽうで、こうした素早い動きをしているのは、東京の渋谷などにオフィスを構えている新興系のIT企業だけであって、オフィスマーケットそのものに深刻な影響を及ぼすものではないとの見方もある。
さらに一部のデベロッパーからは、「コロナ禍が過ぎ去れば、オフィスにはコロナ前と同様に社員が出勤するようになる。それどころか企業は、従業員の感染リスクを極小化するために社員同士のソーシャルディスタンスを保たなければならないので、社員間の机を2メートル以上離すことが必要になる。だからオフィス床を増床するだろう」との楽観的な観測まで出ている。