だが現実では、多くの企業において、社内の部署ごとにテレワークができる部署、できない部署に分け、勤務体制をシフト勤務にしていくのが大きな流れとなっている。こうすれば、社員の人数分の机や椅子を用意せずに、オフィス床を小さくすることが可能になる。
オフィス賃貸料は企業にとって、人件費に次ぐ重たい固定費だ。コロナ禍で業績を落とす企業が多い中で、デベロッパーの思惑通りにオフィス床を唯々諾々と増床するような余裕のあるテナントは少数だろう。ということは、今後オフィスをスリム化する動きは顕著になってくるものと思われる。
企業従業員の1割がテレワークになったら……
人々の働き方の形態そのものが、今回のコロナ禍を契機に大きく変わる可能性があるというのが、ポスト・コロナにおける重要な視点だ。いっぽう、「結局もとに戻る」という意見は、コロナ禍は一過性の感染症にすぎず、働き方そのものには大きな変化は生まれないという前提に立っていることになる。そうした意見を述べている人は、古くから存在する大企業の役員たちに多いようだ。世の中の変化に鈍感なのは、古くて組織の大きな企業の特徴でもある。
オフィスビルマーケットは、実体経済の好不調から約半年遅れて影響を受けるといわれている。通常の賃貸借契約は、解約する場合には6か月前に予告をしなければならないので、実際に解約となって空室にカウントされるのは6か月先になるからだ。また、大規模ビルに入居するテナントの多くは定期借家契約で3年から5年の比較的長期の契約を結んでいるところが多い。こうした状況から考えると、オフィスマーケット悪化の予兆が現れてくるのは今年冬以降になりそうだ。
日本総研の予測では企業従業員の1割がテレワークになった場合、東京都心5区の空室率は15%近くに急上昇し、平均賃料も約2割下落するとしている。これはやや極端な予想にも見えるが、少なくとも分水嶺の4%はそう遠くない時期に突破してもおかしくないと思ったほうがよさそうだ。
まだ「渋谷のオフィスで働く」に憧れる?
気を付けたいのは、やはり人々のマインドがコロナ前とコロナ後では大きくチェンジしたことにある。これまでの“常識”であった働き方が実は違うのだ、違ってもよいのだ、通勤なんてしなくても仕事はできたんだ、という気づきをオフィスで働くほぼ全員が「共有化」できた。
また、学生に対するリクルーティングでもこれまでは「渋谷のオフィスで働く」というのは大いなる宣伝効果があったのだが、渋谷のような「密」な場所に毎日通勤することのリスクを避ける気持ちが強くなれば、そもそも渋谷にオフィスを構えることの意味が失われる。
ポスト・コロナ時代において、オフィスはその役割をずいぶん変質させていくのではないか。これまでは全員がひとところに集まって仕事するということが社員たちの意欲を促し、労働生産性を高めるものと考えられてきた。ところが実際にはオフィス床というものが、必ずしも働く場として必要なものではないとわかり、オフィスの存在意義を問い直されたのがこのコロナ禍だ。オフィスはただ単に、時折、社内外の人と会って互いの存在を確認しあうだけの場になっていきそうだ。