新型コロナウイルスの感染拡大で最も影響を受けた業界の一つが「観光産業」だ。
政府は感染拡大で打撃を受けた業界を支援する「Go Toキャンペーン」のうち、観光分野の割引事業である「Go Toトラベル」を7月22日から始めた。国内旅行商品の金額の半額相当を国が支援する内容で、支援額の上限金額は宿泊旅行の場合、1泊当たり1人2万円。支援額の7割は旅行代金の割引に充てられ、3割は買い物や飲食などで使える地域共通クーポンとして配られる。
しかし、首都圏を中心に再び感染者数が増加しており、その効果に対して懐疑的な見方も広がっている。観光産業復活へ向けた道のりはまだ厳しい状況が続くなか、「文藝春秋」8月号では、高級ホテル・ホテル運営の「星野リゾート」代表の星野佳路氏に「観光業」復活のためのポイントを聞いた。
106年間「危機」を乗り越えてきた
まず星野氏が強調したのは「生き残ること」の大切さだ。
「星野リゾートは1914年に長野県軽井沢で最初の旅館を開業してから今年で106年目を迎えます。その間、多くの『危機』を経験していますが、その都度乗り越えてきました。今回のコロナ禍も確かに未曽有の事態ではありますが、過去の経験に照らして、『こういうときは、まず何より生き残ることが大事だ』という点で社内が一致しています。
『本を固うすべし、然らば事業は自ずから発展すべし』
これは私の祖父で、星野温泉二代経営者の嘉政に、キリスト教思想家の内村鑑三が贈った『成功の秘訣』十箇条の一つです。内村は当時、よく星野温泉を訪れていた関係から、まだ若くて荒っぽいところのあった嘉政のことを心配してアドバイスをしてくれたのでした。
私自身、この十箇条に則って、何か事を決めたことはありませんが、長い経営者人生の中で、様々な事象に遭遇した時に、十箇条の一つ一つの意味を少し理解できたと思う時があります。
『自己に頼るべし、他人に頼るべからず』
『雇人は兄弟と思ふべし。客人は家族として扱うふべし』
などは、コロナ禍に考えさせられる格言だと思っています」
一つだけ“異彩を放つ格言”がある
十箇条にはさらに以下のような格言があるという。
「成功本位の米国主義にならうべからず、誠実本位の日本主義にのっとるべし」
「濫費は罪悪なりと知るべし」
「能く天の命にきいて行なうべし。自から己が運命を作らんと欲すべからず」
「誠実によりて得たる信用は最大の財産なり、と知るべし」
「清潔、整頓、堅実を主とすべし」
「人もし全世界を得るとも、その霊魂を失わば何の益あらんや。人生の目的は金銭を得るに非ず、品性を完成するにあり」
どれも示唆に富む内容だが、星野氏によると一つだけ「異彩を放つ格言」があるという。