ついに発売!  渋谷直角6年ぶりのコラム集『コラムの王子さま(42さい)』より、収録コラムの一部を特別掲載。第3回は、ある“アンティークアイテム”の品定めについて。読者のみなさんはどう思いますか?

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KEN OGATA

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『コラムの王子さま(42さい)』渋谷直角

「直角くんにおみやげあるんだよ」。渋谷で男友達3人で飲んだときだ。DJをやっている友人がそう言って、新聞紙に包まれたものを渡す。

 緒形拳のコーヒーカップだった。粉引(こひき)の、少しうねりのある形で、カップの内側の底に「KEN  OGATA」とサインのみが印刷されている。

「い、いらねえ~……」

 まずそう思った。緒形拳さんは生前に取材したこともあるし、すごく良い人だった。でも、グッズまで家に置きたいかというと、話は別である。このカップは正直安っぽく見えたし、日常で使いたい感じでもなかった。「コーヒーを飲んでいくと、だんだん“KEN  OGATA”の文字が見えてくるんだよ。シブくない?」。僕の戸惑いなどおかまいなしにDJの友人は言う。すると、もう一人のデザイナーの友人がカップを手に取り、言った。

「ええやん、コレ」

©渋谷直角

 いいんだ!? デザイナーの友人は古物コレクターでもある。彼が「いい」と言うのは意外だった。僕はせめて、緒形拳の似顔絵が描かれていれば、キッチュなモノとしてかわいいかな、とも思えるが、サインのみだと少しモノとしてわかりにくい。

「わかりにくいのが、ええね」

 僕の考えを見透かしたかのように、デザイナーの友人は言う。するとDJの友人も我が意を得たりで、「そう。こういうのを、“変でしょ”“面白いでしょ”ってネタで消費するのは古い。それは80~90年代的な発想のまま。もっと違う価値観を作らないと。DJも同じだよ」。デザイナーの友人も「コレクターでも、ただビートルズを集めてます、みたいな人はナメられんねん。みんな集めてるから。自分だけの切り口で価値を見つけて集めている人が一目置かれる」「だよね。新しい価値を見出すのが大事だよね」。……僕も、それはそうだと思うし、なるべく人の後追いはしない、という姿勢で仕事もしているつもりだ。だから言葉自体に共感はできるのだが、このカップの「KEN  OGATA」が、そんな新しい価値観を提示するモノにはとても思えないのだ。しかし、この場は完全に「コレを良いと思わないほうがセンスが悪い」という空気になっている。こんな追い詰められ方があるだろうか? 仕方がない。僕は言った。「良いよね~。欲しかったわ、コレ」。すると二人が、

「こんなのが欲しかったの!?」

 ……骨董って、奥が深いなぁ(絶対そんな話じゃない)。

みんなはどう思う?
http://www.mikiji.tv/shibuya_chokkaku/ken_ogata.html

コラムの王子さま(42さい)

渋谷 直角(著)

文藝春秋
2017年8月30日 発売

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