昭和34年(1959年)創刊の総合週刊誌「週刊文春」の紹介サイトです。最新号やバックナンバーから、いくつか記事を掲載していきます。各号の目次や定期購読のご案内も掲載しています。

プロ野球、5000人の有観客試合 ゆとりとにぎわいのバランスが“ちょうどいい”件

文春野球コラム ペナントレース2020

 文春野球コラムをお読みのみなさんは「有観客試合」に行かれましたでしょうか。プロ野球は上限5000人という制限のもとでの開催ですが、今のところ「超満員」とまでは言えません。チケットは一応売り切れるところまでは行くものの「落選祭り」というほどではなく、最後まで粘れば公式リセールサービスなどで翌日・当日のチケットを拾うこともできます(※名誉のために名前は伏せますが、粘らなくても当日まで普通に買える球団も存在してオリッマス)。じっくり取り引き価格を見ていると球団によっては定価割れのケースも散見されます。

 プロ野球では8月1日から「収容人数50%」での開催を目論んでもいましたが、見直しの判断は適切だったと言えるでしょう。各地が感染拡大の傾向にあることもそうですが、巨人・阪神のような一部超人気球団以外はおそらくその枚数のチケットをさばき切る状況にはまだないのではないかと思います。「絶対行きたい」と思えば行ける……上限5000人が「ちょうどいい」くらいの世情であると感じます。

 この「ちょうどいい」こそが有観客試合を端的に表すキーワードではないでしょうか。

 去る7月25日、僕自身も「観客」として埼玉西武ライオンズの試合を観戦してきました。今シーズン初、そして一連のコロナ禍以降ではその他の競技を含めて初となる「観客」としての観戦です。その体験は率直に言って素晴らしく、「ちょうどいい」ものでした。ようやく野球の試合をこの目で見られたという嬉しさはもちろんですが、観戦体験そのものの心地よさがグッと増していました。

あいにくの雨のなかではあるけれど「観客」としての喜びに震える訪問

「ちょうどいい」ことだらけの有観客試合

 もはや対策については世間一般でも標準化してきていますが、待機列などにおいて距離を取るソーシャルディスタンス、検温・消毒の徹底、マスクの使用、接客にあたる職員をビニールカーテンで保護するなど安心感のあるものです。メットライフドームは球場本体も隙間があいている落としブタ構造ですので、観戦時に取り立てて「密」と言える環境はありません。

「密」を避けた結果として率直に実感するのが、どれだけ「密」が不快であったのかということ。何をするにも人数が多く、人とぶつからないように気遣うことや、順番待ちをすることの連続。電車はすし詰め、売店は行列、球場では黒豚シウマイのように箱にギッチリと押し込められ、トイレの前では漏れそうな人が震えています。混雑による高揚感がないわけではありませんが、それは常に不快を伴うものでした。夏の暑さのように「気分も上がるが、不快でもある」という。

 それが有観客試合ではどうでしょう。行列はあっても短くすぐにさばける程度のものですし、さばき切れずに人が滞留してしまうことはありません。心なしか球団の職員さんたちにもゆとりがあり、普段なら絶対に放置されるだろうなぁと思う案件にも丁寧に対応してもらえます。

 たとえば客にレンガを売りつけようと躍起になっている「Lions BRICK CIRCLE PROJECT」の販売テント。こちらメットライフドーム前広場に自分の名前を入れたレンガを敷設してもらえるというサービスです。レンガ代、1個19,800円(税込)。テントでは担当の職員さんが熱心にセールスを展開してくれます。僕ひとりにふたり掛かりでセールスしてきます。電気量販店だってこんなに熱心にはやってくれないという勢いです。さすが、レンガを19,800円で売ろうとする男たちの目の輝きは違う。

このレンガを19,800円で買えば、球場前に名前入りで敷設してやるぞというご提案

 僕も検討にあたり実物を見てみたいと思っていたので、この機会にじっくりとレンガを観察させてもらいました。ずっしりとして、まさに「レンガ」といった重量感ある塊と、ちっちゃいフォントで深く明確に刻印される名前・シリアルナンバー・ライオンズのロゴ。「思ったよりしっかりしてる」「これなら10年くらい壊れないかも」「三匹の子豚のブタなら即決のレンガ」という納得感。担当の人は「オードリーの春日さんも買ってくれたんですよ」などと熱心なアピールを僕ひとりに展開してくれています(※「えっ春日さんが! じゃあ買います!」とはならないが……どんな品物でも……)。

 通常なら「視察」段階では見るだけでそそくさと撤退するのですが(※買うならどのみちネットだし)、これだけゆとりがあるならひとつふたつ質問してもいいだろうとコチラからも話し掛けます。「一応検討はしているんですが……すぐに売り切れちゃいそうですかね?」と勇気を出して聞いてみました。あぁ、すみません! お忙しいなかで質問なんかしちゃって! ほんと、お忙しいなかすみません! そして「販売期間の最後まで大丈夫だと思いますよ」のご回答ありがとうございました! じっくり検討します!

「2031年まで設置」って書いてあるのを見て、「2031年までは球場の抜本的建て替えはないんだな」って思いました

 そして不勉強な客に対するサポートも充実しています。お土産に買おうと思っていた今季から新登場の「らいおんず十万石まんぢゅう」。これがグッズショップのお菓子コーナーに見当たりません。店員さんに聞くと売り場が違うとのこと。「グッズショップのお菓子売り場じゃなけりゃ逆にどこなんですか?」と思いつつ、「あっちの店です」というアドバイスを受けてさらに探しに向かいます。

 指差された「あっち」方向にグングン進んでいくと、これまた今季から新設のチームストア獅子ビルが見えてきました。なるほど新しいショップがあるのだなと思って突入するも、そこにあるのは食堂とゲームセンター。まんじゅうの気配はありません。入場口の職員さんに「まんじゅうは一体どこなんですか!?」と尋ねると、警備員さんの無線まで使って懸命にまんじゅうの場所を探してくれます。

職員「客なら調べてから来いよ……」

観客「まんじゅうの場所ぐらい周知しとけよ……」

職員「お前がいじっているスマホで今調べろよ……」

観客「まんじゅうの看板くらい立てとけよ……」

 と、心のなかで互いを罵倒する神経戦(※向こうは違うかもしれない/一方的な被害妄想)。情報をあっちゃこっちゃ探った末に教えていただけたのは、球場の弁当を売るブースで試合開始1時間後から売るというお話でした。なるほど、あとでちゃんと見たら球団の公式サイトに書いてありました。弁当と同様に事前予約も可能なので絶対欲しい人は予約してね、というご案内とともに。

 公式サイトをちゃんと読んでこない客への丁寧な案内と、数量限定ではありながらも当日ちゃんと並べばちゃんと買える程度の人混み具合。「ちょうどいい」なと思います。事前にしっかり調査と準備をした人しか得られない楽しみでは「広がり」というものがありません。まんじゅうひとつとってもそう思います。いやー買えてよかった!

試合開始1時間後に買えました。味は「うまい うますぎる」です