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西武・栗山巧と登場曲の謎 ずっとかけていなかったのに無観客試合で突然……

文春野球コラム ペナントレース2020

2020/07/18

 リーグ3連覇を狙う今季、ライオンズにいい意味で“裏切られた”ことがあります。開幕から絶好調の栗山巧選手。おそらく僕(あさりど・堀口文宏)しか追っていないと思う話なので、文春野球で出せることを非常に嬉しく思っています。

 ライオンズファンならご存知だと思いますが、栗山選手は打席に入る際、去年まで登場曲をかけずに無音で向かっていました。それが今年、以前の登場曲(クレイジーケンバンド「あ、やるときゃやらなきゃダメなのよ。」)をかけ始めたんです。

 栗山選手が登場曲をかけなくなったのは、2017年シーズンの途中です。あれ? かかってないなって思い、理由を知りたくなって聞きにいきました。

堀口「野球の話とは違うんですけど、登場曲の話を聞いていいですか?」

栗山「ああ、かけてないことですか? かけるのをやめたんじゃなくて、曲を変えようと思ったんです」

 この年の栗山選手は、5月まで打率2割5分台と思うようにヒットが出ていませんでした。それで何かを変えたいな、登場曲を変えたいなと思ったけど、いい登場曲が見つからなかったと。だったら別に登場曲をかけなきゃいけない理由もないから、かけるのを1回やめてみようと。それでしばらくやってみて、「自分の中であまり違和感がないので、これで打撃がよくなればいい。今のところ実験中です」という言葉を残して2017年シーズンは曲をかけないまま終わりました。

栗山巧 ©文藝春秋

栗山巧のカッコいいツーベース

 次の年の開幕戦の前、2018年シーズンは登場曲をどうするのかを聞きにいくことにしました。登場曲って自分を盛り上げる目的もありますけど、ファンサービスの一つでもあったりすると思います。だから野球をしっかり報じる記者の方より、もともとライオンズファンで、今もファンの代表のような形で取材現場に行かせていただく僕が責任感を持ってお伝えしたいなと。そう思って2018年、札幌ドームでの開幕戦の前に聞きにいきました。

 栗山選手はいつも、一人で黙々と練習しています。そんな中に割って入っていくわけです。野球理論を聞くならまだいいけど、「登場曲を今年どうしますか?」って、そんなに簡単に聞ける話題じゃないなって正直思いながら聞きにいきました(笑)。

堀口「今日はビジターですけど、今年は登場曲をかけるつもりはありますか?」

栗山「今のところ、かけるつもりはありません。別にかけなかったことで、去年もそんなに自分の中で違和感もなかったですから」

 2018年の開幕戦で栗山選手はスタメンを外れましたが、9回に代打で出番がきました。そうしたら、ビジターなのに曲がかかったんです! 札幌ドームのライトスタンドの片隅に追いやられているライオンズファンから、「やれ~ば、でき~るよ」ってかかったんですよ。

 僕は「おおっ!」って鳥肌が立ちました。それに応えるように、栗山選手がツーベースを打ったんです。「おおおおっ!」と思って、慌ててライトスタンドに行って応援団長に聞きました。

堀口「曲をかけようと準備していたんですか?」

団長「全然していなくて、栗山さんが打席に立ったから演奏したくなっちゃって。勝手にラッパを吹いたら、ファンの人たちがついてきてくれたんです」

 めちゃくちゃいい話じゃないですか! ファンの自然な歌声に、栗山さんがツーベースで応えるんですよ。カッコよくないですか。

 翌日、試合前に栗山選手に聞きにいきました。

堀口「曲がかかったの聞こえましたか?」

栗山「もちろん聞こえましたよ。いやあ、焦りましたね」

堀口「率直に、どうでしたか?」

栗山「素直に、すごく嬉しかったです」

堀口「ヒットを打ちましたけど」

栗山「そのおかげかどうかわからないですけど、気持ちよく打席に立てました」

 その日に団長のところに行って栗山さんの話を伝えると、「嬉しいなあ~」って言っていましたね。