今日からプロ野球は観客を入れての試合が行なわれます。徹底した対策(などと主張しており……)のもと、上限を5000人(オリックスだけ完全復活の予感)に絞っての有観客試合。しかし、足元では不安の火種がくすぶっています。東京都では何日も連続して新規感染者が100人を超える状況。小池都知事は「不要不急の他県への移動を自粛」するように求めました。ようやく迎えた有観客での再始動の日も、東京都内での試合はありません。おお巨人とヤクルトよ、2球団いっぺんにほっともっとフィールド神戸に行くだなんて……。
一歩前進はしましたが、まだまだこうした状況はつづくでしょう。「観客」にはなれない状況がつづくなかで、いかに楽しい試合にするかというのは運営側のテーマであると同時に、ファン側のテーマでもあります。もちろん家でただテレビを見ていることに何の不足があるわけではないですが、もっとこの観戦体験を高めたい。そう思って繰り出したのが埼玉西武ライオンズとプリンスホテルが提供する「埼玉西武ライオンズ“みんなで繋がる”リモート応援プラン」。プリンスホテルに泊まり、ファン同士をZoomでつなぎながらライオンズの試合を見る。そんな特別な体験のなかで「観戦体験」とは何か、改めて理解が深まったような気がします。
球場以上のリモート「観戦体験」
ホテルのロビーに入ると、今年からリニューアルされた球団応援歌「吠えろライオンズ」が流れています。広瀬香美さんの圧の強いハイトーンボイスが無限にリピートされる空間には、ライオンズ選手の立て看板やのぼりが掲出されています。無観客試合は「音」に注目……なんて論評を数多く見ましたが、まさに「音の圧力」といった雰囲気でプリンスホテルは出迎えてくれます。西武球場前駅に降り立ったあと、無限に松崎しげるさんの歌声が流れてくるあのうっとう……じゃなくてにぎやかさが十分に再現されています。ホテル従事者の方に「一日中聴いてると疲れますよね?」という顔でニッコリ会釈をすれば、爽やかな笑顔を返してくれます。出だしから気分は上々です。
フロントでスッと差し出す株主優待1000円引き券の束とファンクラブ会員証。「株主様でファン様ですか」とVIPでも待遇するようにフロントの方は対応してくれます。利用者には、球場に来たときと同じようにLポイント(ファンクラブのポイント)を付与してくれるとのこと。チェックインのサインをするボールペンは消毒済のものと使用済のものがハッキリと区別されており衛生的で安心です。手続きを終えるとホテル従事者の方から次々にモノが渡されます。球場と同じ弁当、本当は来場者に配るはずだったチャンピオンリングとピンバッジ、球場と同じデザインの入場チケット、さらにはビールを買えば球場と同じ紙コップまでくれます。来ている場所が球場ではないことを除けば、ここまでの体験はすべて球場と同じ、いや隙間風や虫がこなくて快適なぶん球場以上です。
そして何故か渡されたホワイトボードとサインペン。応援メッセージでも書くのだろうか……?と腑に落ちないまま客室に入れば、客室にはさらにもう1組ホワイトボードとサインペンが置いてあります。これがサッカーなら磁石を並べてフォーメーションでも指示するのかなと思うところですが、野球観戦でホワイトボードはピンとこないアイテム。つば九郎が他球団の悪口を書く用途くらいしか思いつきません。どうしてもホワイトボードを押しつけたいホテル側の意図がわかるのは試合が始まってからのことでした。
MCから告げられた驚愕の事実
このプランではファン同士がZoomでつながるというのが最大のウリでした。部屋のテレビで試合を映し、自分のスマホでZoomをして、みんなで一緒に応援をするのです。フロントで渡されたマニュアルに沿ってZoomの会議室にインすると、いつもメットライフドームでファンを盛り上げてくれているスタジアムMCのHARUさんが待っていました。HARUさんの登場に「MCまでいるのか!」とテンションもアゲ気味で「HARUさーん!」「絶対勝とうね!」「メットライフエクササーイズ!」と呼び掛けますが特に反応はありません。ハイハイ、マイクがミュートになってるんですね……とZoomアプリを操作しますが、マイクが反応しません。
そのとき驚愕の事実が告げられました。
「みなさまが一斉にお話をされてしまうとイベントの進行に支障をきたすため、参加者のマイクはミュート設定にさせていただいております」と。
え、コッチの音出ないんですか!?
じゃあ、どうやってつながればいいんですか!?
そうです、その答えが先ほど絶対に漏れがないように2枚押しつけられたホワイトボードだったのです!
イメージでは参加者同士がワーとかキャーとか言って、得点が入ればみんなでオオオオ!と盛り上がったり、何なら応援歌を歌ったりする集いを想定していましたが、フタをあければまさかの大喜利大会の様相。カメラに向かってホワイトボードで応援メッセージを出し合い、MCの呼び掛けにホワイトボードで返事をしたりと手元が忙しい観戦となります。ほかの部屋の人と交流するとか、何なら部屋をノックされるくらいまで想定していたのですが、気がつけばホワイトボードを消したり書いたりするので手一杯です。
イニング間にはMCが一生懸命ファンの気持ちをつなげようと質問タイムを設けたりしてきますが、「メットライフドームのいいところってどんなところですか?」という普通に答えに窮する質問をされた際にも、「駅近」と書き込んだホワイトボードが大活躍してくれました。あと、その日の試合はボッコボコに打たれて8回表途中で8点差をつけられる大負けの展開だったのですが、「日ハム相手なら8回8点差からでも逆転できる!」と書いたボードを即座に「9点差になった」「10点差……」に書き換えることができてホワイトボードは本当に使い勝手抜群でした(※最終的には2-12で負けました)。
4回表終了時のメットライフ・エクササイズ。7回表終了時のライオンズラッキーセブン。源田壮亮キャプテンや、川越プリンスホテルに絡めて登場した川越誠司選手らの特別なメッセージ動画。10点差がついて負け確定と思ってるはずなのに「最後まで勝利を信じましょーう!」と懸命の気休めで呼び掛けてくれるMCのHARUさんの奮闘。敗戦後にはファンを慰めるためにレオとライナもZoomに登場してくれました(※もちろん筆談)。球団が用意した出し物はとても楽しいものでしたが「思ってたんと違う」ものであったことは否めません。最後のほうは「ラジオ番組に一生懸命ハガキ送ってる」みたいな気持ちで参加していました。