僕の登場曲はファンの声援だ
2019年の開幕戦は福岡でした。開幕戦で登場曲について聞くことは自分の中で年に1回の恒例行事になり、試合前に聞きにいきました。
堀口「栗山さん、今年は?」
栗山「もうええんちゃいます。そんな大した話じゃないから、僕の登場曲なんて。堀口さんだけですよ、聞いているの」
堀口「気になるんで、お聞かせいただきたいんです」
2019年もかけるつもりはないとのことでしたが、かけない理由を聞いていくと、それがまた栗山選手らしいんです。
「曲をかけると盛り上がりますよね。でも曲をかけないと、球場の空気感をより感じることができるんです。ファンの声援とか、球場全体が自分に何を期待しているかがわかります。それで、『よっしゃ、やってやろう!』という気持ちになるんです」と。ファンの声援に背中を押されて、打席に立つという流れみたいです。
「だったら、『僕の登場曲はファンの声援だ』、でいいんちゃいますか。もう恥ずかしいんで、この辺で終わりにしてください」
最初は自分のために曲を変えようと思っていたのが、ファンのこともずいぶん視野に入れてきている感じが見受けられました。毎年聞いてきたからこそ、僕の中で感じられたことです。「栗山選手は自分の打席なのに、ファンのことをこんなに考えてくれているんだ!」って、嬉しくなりました。
メラド初の有観客試合、栗山はどんな裏切りをするのか
で、今年です。コロナウイルスの感染が広がり、球場にお客さんが入っていません。
シーズン開幕前の6月7日、練習試合の中日戦がメットライフドームでありました。この日から登場曲を流し始めたんですよ。
「無観客試合の間は僕の登場曲を流してください」
スタジアムDJのRisukeさんに、スタッフを通じてそんなメッセージを託したそうです。栗山巧。まさか、コロナの無観客試合というタイミングでそんなメッセージを残していくとは!
(※当初、栗山選手が直接放送席を訪ねたと記述していましたが、正しくはスタッフにメッセージを託したとのことでした。訂正いたします。7/18 12:23)
僕は逆に、栗山選手のことだから無音で打席に入り、「球場でファンの人の声援は聞こえないけど、僕には届いているよ」っていうことを想像していたんです。でも、そうではなかった。曲がかかって、「えっ?」と。完全に裏切られたな、と。
裏切られるって、意味合いがいくつかあります。僕の中では、想像していなかった裏切られ方です。裏切られて嬉しいことって、あるんだなと。これはすごいな、と。
無観客試合の時期が終わり、7月10日から各球場でお客さんを入れ始めたじゃないですか。ライオンズは7月21日のロッテ戦から約5000人を入れます。
そこで栗山巧は登場曲をどうするのか、知りたいところですね。どんなふうに僕らに嬉しい裏切りをしてくるのか。ファンの皆さんには是非、楽しみに待っていただきたいです。21日はちょうどテレビ埼玉の中継でリポーターを担当するので、試合前に取材できればと思っています。
なぜ、栗山巧は登場曲をかけることにしたのだろうか。2019年の開幕戦で答えてくれたように、登場曲がないことによって球場の空気感を感じられるということは、ファンのいない球場の空気感がちょっと寂しいと思ったのか。
スタンドのファンの「栗山頑張れ!」っていう声は聞こえるんですって。「打てよ!」っていう声援が乗り移る感じがあるんですって。その声に背中を押してもらっている、と。そういう流れで打席に向かうのが心地よくなってきたところだったんでしょうね。それがないのであれば……と登場曲をかけたのかもしれない。あるいは、無観客試合の応急処置的なことかもしれません。
これはあくまで僕の憶測でしかないので、栗山選手に直接聞いてみたいですね。そうやって話を聞いていくと、ファンの人へのメッセージが出てくるような気がしています。
構成/中島大輔
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