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なぜ人は打率4割を超えられないのか――上原浩治氏が教えてくれた「切り替え」の意味

文春野球コラム ペナントレース2020

2020/08/09
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想像以上に難しい「好調をキープする」という作業

 この、上原氏が著作で語る「切り替え」についての印象が深かっただけに、

「なぜに4割バッターと、切り替えの話がリンクするのだろう」

 と頭に「?」が浮かんだ。

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「打率4割ということは、1試合に3打席なら2安打、4打席なら2安打、5打席なら2安打——、これを毎日維持し続けないとダメということですよね」

 と上原氏が続けて語る。

「そうなりますね」

「たとえばですけど、ものすごく調子がいい日があって、その日に一気に10打席とか立てるなら、固め打ちで打率8割とか、あり得ると思うんですよ。でも、実際は4打席くらいでその日のゲームは終わり、次の日がくる。区切られてしまうんです。日をまたぐと人間の調子は少しずつ変わりますから、打てない日も出てくる。続けられないわけです」

「3打数1安打なら、続けることができるということですか?」

「続けられます。それだって3割3分3厘だから、年間に2~3人しか達成できない、すごい数字ですけど」

 つまり、上原氏は人間が一日一日、新たな営みを迎える以上、時間の経過とともに、精神の切り替えもおこなわれ、自然と調子も変わっていく。大げさに言うならば、人が生きる限り、喜怒哀楽の集合である調子は上下動し、それゆえにバッターは4割に届かない、と分析したわけである。

 プロのアスリートではない我々は、「調子」を継続的なものとして考える習慣を持たない。

 好調をキープするという作業は、想像以上に難しいのだろう。人間は日々、さまざまな感情を切り替えながら生きている。たとえば、昨日はラーメンだったから、今日は丼、明日はそばにしよう——、この何てことのない気分の切り替えだって、ひょっとしたらバッターの選球眼に影響を与えることがあるかもしれない。

 朝食には必ずカレーライスを食べることで有名な、上原氏と同じく偉大なメジャーリーガーがいた。あの朝カレーも、実はルーティーンを守ることで、なるべく日常に変化を起こさせない、少しでも好調を維持せんとする努力の一環だったのかもしれない。

 対談から、半年と少しが経った。

 今でも、この4割談義を思い出しては、「頭よかったなあ、コージ」とその印象を振り返るわけだが、日米をまたにかけて得た膨大な経験に裏打ちされた明晰さを、指導者というかたちで巨人に還元してくれたらなあ、とついつい夢想してしまう私である。

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