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「今日、父が来ているんです!」スワローズ・原樹理と最愛の父との物語

文春野球コラム ペナントレース2020

2020/08/12
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「息子をよろしくお願いします」と父は言った

 この日、浦添市民球場のスタンドから練習を眺めていると、僕の目の前に高齢の男性が一人でグラウンドを見つめていた。注意して見ると、首には関係者向けのパスをぶら下げている。そこには「原」と書かれていた。原の言葉を考えれば、この方が原樹理の父親なのだろう。

 お父さんは、最後まで一人で練習を見つめていた。夕暮れどきになり、「そろそろ帰ろうか」と、男性の横を通り過ぎる。その横顔は少しだけ原樹理の面影があるような気がした。僕は思わず声をかけた。

「もしかしたら、原樹理投手のお父さまですか? 先ほど、息子さんから“父が来ている”と聞きました。昨年の秋、インタビューをさせていただいた者です」

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 すると、お父さんは嬉しそうに言った。

「これからも息子をよろしくお願いします」

 時間にして1分程度の会話だったが、この瞬間のことは頭に残っている。

 20年7月21日、原樹理は415日ぶりの復活勝利を挙げた。翌日のスポーツ紙の片隅には、彼の父の訃報が掲載された。記事によれば、今年の2月中旬に父を亡くし、宮崎・西都でキャンプ中だった原は、父の最期に立ち会えなかったという。この記事を読んで、あの日の浦添での出来事が脳裏をよぎった。

415日ぶりの勝利をあげた原樹理 ©時事通信社

 21日のDeNA戦で復活勝利を挙げた原は、続く29日の阪神戦でも勝利投手となった。誰もがうらやむ才能を持ちながら、なかなかひと皮むけなかった。いいピッチングをしても、なかなか白星がつかなかった。

 しかし、プロ5年目を迎えた今年、2試合に登板して2勝を挙げた。調整のためにファームに落ちたものの、本日12日の巨人戦で再び背番号《16》が躍動する。「理性が樹木のように茂るように」という、父の願いが込められた名前を背負って、原樹理がマウンドに立つ。

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