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日本ハム・渡邉諒の異名“直球破壊王子”の真実を考えてみた

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 当方は「直球破壊王子」警察である。目下、渡邉諒を捜査中だ。いまやファイターズの主力に成長した2013年ドラ1、渡邉諒選手に「直球破壊王子」の異名がついた。過去、スポーツ界には「ハンカチ王子」「ハニカミ王子」「ひねり王子」etc.と様々な王子が林立した。それまでの王子界はどうだったかというとオスカー・ワイルドが「幸福な王子」を書いた程度ではなかったろうか。

本人は「王子」を否定しているが……

「直球破壊王子」の発端は日刊スポーツ紙であるという。コロナ禍でズレ込んだ6月の開幕直前、同紙は各チームの開幕スタメンを予想し、野球人気を盛り立てようという企画を立てた。その際、選手らの異名を担当記者さんが考えたそうなのだ。渡邉諒の特徴は何かというと「ストレートに滅法強い」ことだ。そこで「直球」を「破壊する」「王子」のイメージが誕生した。漢字6文字。「ハンカチ王子」「ハニカミ王子」等とは違って字ヅラがゴツゴツしている。音も「チョッキュウハカイ」と金属音が二度も出てくる。ガギグギガーンと破壊しそうだ。そんな王子。前代未聞だ。

 それがファンの間で浸透していった。イメージが面白かったのだ。「直球を破壊してくれ~」の応援メッセージが札幌ドームのビジョンに躍り、有観客試合になってからは「直球破壊王子」の応援ボードが掲げられるようになった。日刊スポーツのスマッシュヒットだ。2020年シーズンを彩る新ネタだ。開幕以来、もうひとつエンジンがかからないでいたファイターズに素晴らしい「売り」を提供してくれた。

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 が、当方は「直球破壊王子」の真実を捜査中なのだ。まず、考えてみたい。「王子」って何だ? 渡邉諒が「ストレートに滅法強い」ことは事実だ。それを「直球破壊」と呼んでみたことはわかる。が、「王子」だろうか? 「直球破壊」「王子」だろうか?

 この件に関しては日刊スポーツ・中島宙恵記者が8日付の記事で渡邉諒本人のコメントを紹介している。傑作なのでぜひご覧いただきたい。

「(前略)『浸透してるんだな』と思ったんすけど…“王子”では、ないっすね」(前略はえのきど)

 本人は「王子」を否定している。否定した上で、「真っすぐが来なくなっちゃうじゃないですか」「直球破壊選手とかで、いいんです」等の発言をしたそうだ。

 直球破壊選手。これはもう曖昧だ。「ラーメン注文客」くらいの匿名性だ。仮に直球破壊選手が渡邉で、ラーメン注文客が山本だとして、その逆でも誰も気にしない。そう考えるとやっぱり「王子」は外せないのだ。スポーツ選手のキャラを立てるとき、ある時期、メディアは「怪物」性を強調した。その次は「貴公子」性を強調するようになった。渡邉諒は(本人が否定しようとも)「直球を破壊する」貴公子なのだ。何てったってドラ1だもん。断然、「王子」部分は必要。

なぜ「直球破壊」と表現したのか

 次に仔細に見ていきたいのが「直球破壊」部分だ。「直球」はいいだろう。渡邉の責任でなく、相手投手がフォーシームなのだ。が、「破壊」してるのだろうか? 例えばの話、8日札幌ドームの西武戦、2回裏、松本航から左中間スタンドにホームランを放っている。あのホームランボールが真っ二つに割れ、芯のコルクに巻き付けた糸がほつれていたというような事実があるだろうか? ないだろう。それではなぜ日刊スポーツは渡邉の一打を「直球破壊」と表現したのか?

 それはこういうことではないだろうか。強く叩くイメージ。松本航のストレートを仕留めた弾丸ライナーのホームランを思い返してほしい。ホームランボールには様々な質がある。中田翔のホームランはバットに乗っけて運ぶイメージだ。高く舞い上がる。ホームラン打者はボールの下側を叩いて、上昇回転を与えるそうだ。

 に対して(本質的には中距離砲の)渡邉諒は真っ芯を打ち抜く。ハードヒット。ホームランボールは弾丸ライナーになる。「ヒットの延長線上にホームランがある」というやつだ。栗山英樹監督は渡邉の将来像を「長嶋さん」と喩えたことがある。勝負強くて華のある、最強の中距離砲をイメージしたのだ。

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