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君は「杉谷拳士の1球」を見たか 野球は気持ちなんだ

文春野球コラム ペナントレース2020

 栗山監督はこの日、杉谷拳士を2番に起用した。開幕からちょうど1か月たった日曜日の試合だ。ファイターズはこの時点でチーム打率が12球団ワーストである。悩みのタネは2番打者のキャスティングだった。打線がさっぱりつながらなかった。打てないなら打てないなりに、送るとか進塁打を狙うとか、球数を放らせて四球を選ぶとか、野球のやりようはある。2番打者はめちゃめちゃ重要だ。復調気配の1番・西川遥輝と、出塁率の3番・近藤健介、好調キープの4番・中田翔を接続する役割。

 ファイターズは従来、ここに大田泰示を置いてきた。バントのサインはない。思い切って打たせる。うまくハマれば「下位でつくったチャンスを返す役割」、「チャンスメイクして主軸につなげる役割」の両方が期待できる。「攻撃的2番」はビッグイニングを呼び込めるという発想だ。ただ今年のように大田が不振に陥ると、ゲッツー製造マシンのようになって打線を寸断してしまう。難しいところだ。大田はタイプ的にあれこれいじらないほうが持ち味が出る。

 栗山さんはオープン戦の段階から2番渡邉諒を試していた。渡邉がハマれば新しい「攻撃的2番」の形ができたと思う(が、渡邉も不振をかこつ)。ここ最近では中島卓也を試し、松本剛を試した。左投手相手だったが、僕は2番松本剛がとても気に入った。つなぎ役に徹し、何球でも粘りまくる。右の先発のときもチャンスを与えてほしかった。が、スタメンは続かない。首脳陣には何か別の見方があるのだろう。

 そしてロッテ戦6回戦を迎えたのだ。僕は野球についてとても大事なことをこの一戦で学んだ。教えてくれたのは2人のヒーロー、杉谷拳士と河野竜生だ。

杉谷拳士 ©文藝春秋

ここは元気者の出番じゃないか

 僕はこれから野球は気持ちなんだという原稿を書く。データも重要。戦力バランスも重要。だけど、人間がやってる競技なんだ。原点は気持ちだ。それをこのロッテ戦6回戦は教えてくれた。いちばん大事なことを忘れてたよ。ファイターズ復活のカギはごちゃごちゃした戦術論じゃない。まず大前提は元気出すことだね。ファイターズの強いときはいつも明るいチームだった。チャレンジするチームだった。

 2番杉谷。おかしな話だが、たったそれだけで顔がほころびる。本人は試合前から意味のよくわからない空手パフォーマンスを始めたりして、大いに張り切っていた。なるほど、(意味はよくわからないが)こういうことも大事だなと思った。杉谷がこの日のスタメン起用(今季2度目)に応えられるかどうかはわからない。そんなやる前から結果がわかってたら苦労はない。

 が、試合前の時点で既にチームを明るくしている。前日はどういう日だったかというとショートスターター大失敗の日だ。好投・加藤貴之を下げて、調子の悪い村田透にスイッチし試合を失った。ムードが非常によくない。ここは元気者の出番じゃないか。

 ファイターズの先発はドラ1ルーキー、河野竜生だった。先発は4試合目。これまでのところ、0勝2敗と結果が出てない。が、河野はガッツがあった。あと1アウトで勝利投手というところまで行って楽天・浅村に逆転ホームラン食らったときも、直近のオリックス戦では山本由伸と堂々の投げ合いを演じ一歩及ばなかったときも、向こうっ気の強さは変わらない。そりゃ河野だって負けたら凹むと思うけど、芯が強いんだ。次の日、ケロッと明るい顔してグラウンドに出てくるようなところがある。

 これは野球にかぎらないかもしれないけど、何でも思う通りになんかいかないじゃん。ダメなときもあるよ。何とかなるかと思ったら浅村がホームラン打つよ。だけど、ダメなとき次どうするかがその人間だよ。河野竜生にはそういう長所があるんだ。立ち上がりが悪くても、思わぬ失点をしても、気持ちが折れない。勇気をもって次に挑む。オリックス戦のピッチングはファンを魅了したけれど、チームメイトの心もつかんだ。河野を勝たせてやりたい。プロ初勝利をつけてやりたい。

 ロッテ戦6回戦はそれが如実に出た試合だ。あれだけ貧打に苦しんだチームが14安打9得点(先発全員安打!)。3回裏、杉谷のタイムリー、中田3ランで4点先制してやると、河野は余裕をもってスイスイ、8イニングを4被安打2失点(126球)でまとめた。特筆すべきは最後の最後まで攻めの投球を貫いたことだ。ロッテ打線としては打てる球がほとんどなかった。