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「腐らずに、楽しむ」もがき続けたホークス・真砂勇介が大事にしていること

文春野球コラム ペナントレース2020

2020/08/28

 バックスクリーンへと伸びていったパンチのある放物線――。

 そして、清々しい笑顔――。

 7月29日のウエスタン・阪神戦で、真砂勇介選手が放った強烈な一発は今季初ホームランでした。“ミギータ”と言われた男の今季1号が7月末というのはちょっと意外でしたが、6月の打率は3割1分8厘、7月は3割1分の好成績。開幕から右に左に安打を量産し、コンスタントに結果を残し続けています。

 試合後、「ナイスホームランでした!」と声を掛けると「マジ最高!」と満面の笑み。こちらも嬉しい気持ちになりました。でも、その笑顔にふと感じた懐かしさがありました。というのも、元気で陽気な真砂選手は笑顔のイメージが強かったのですが、ここ2年くらいはその姿とは程遠い雰囲気がありました。

 それもそのはず。

 右の長距離砲と期待されてきたプロ生活も今年で8年目となりました。5年目に待望の1軍プロ初安打を会心の本塁打で飾るも、7年間で1軍出場は通算22試合、わずか4安打。正直言って、もがき続けているプロ生活です。

2軍で安打を量産中の真砂選手

真砂選手が今年大事にしていること

 結果を残さなければならないという覚悟や焦りがあったのは当然です。テレビのインタビューや日々の取材で話を聞くときに見せてくれていたお茶目な姿も次第に封印されてしまいました。プロ野球選手たるもの、結果を出すことが第一なのは承知の上ですが、豪快な喋りとノリの良さも真砂選手の魅力の一つでした。ここ数年の変化に寂しさを覚えながら、こちらも声を掛ける勇気を次第に失ってしまいました。

 しかし、この今季初本塁打の日、久々にじっくり話を聞くことが出来ました。

「自分のやるべきことをやっていく。腐らずに。楽しむ! 今は野球が楽しいです!」

 この一言に様々な想いが詰まっていました。

 結果を残した者が生き残れる世界。チャンスは年々少なくなり、新戦力も台頭し、争いは更に激化。2軍で結果を残してもチャンスはなかなかやって来ませんでした。いつ来るのかわからないその時を信じてアピールし続ける日々。それでも、「腐らずに」という言葉から、自身の置かれた立場を理解した上で前を向いている気持ちが感じられました。

 そんな真砂選手が今年大事にしていること。それは「楽しむ」ことでした。

「最悪、今年終わっても後悔しないように……」

 私の胸に突き刺さる、刺激の強い言葉でした。

 そんな覚悟の先にたどり着いたのが「野球を楽しむ」ことだったのです。

「だって、好きで始めた野球を嫌いで終わりたくないやないですか」

 そうですよね、好きな野球はやっぱり楽しまないと!

 真砂選手に笑顔と元気が戻るきっかけをくれたのは、ホークスの先輩たちでした。

「一緒に練習させてもらって思いましたけど、(川島)慶三さんやギータさん(柳田悠岐)、いつも楽しそうに野球してるじゃないですか。今年は(中村)晃さんもめっちゃ笑ってますし」

 ここまで圧倒的な結果を残している柳田選手は打席の中でも楽しそうです。川島選手も全力プレーはもちろん、声を出したりベンチを盛り上げたり。そんな姿を観ていると私たちも楽しい気持ちになります。真砂選手も同じ気持ちで見ていたのです。

 クールな打撃職人・中村晃選手も今季は笑顔のシーンが印象的です。中村晃選手には同じ外野手として質問することもあるようですが、逆に相談されたりすることもある間柄だそうです。「1軍のプレッシャーの中であれだけ結果を残してきた晃さんでも悩んでいる。自分なんてまだ何もしてない。ちっぽけな悩みだ」と奮い立ちました。

 

 また、開幕が遅れて自粛期間中に「野球やれんとしんどいな」と感じたことも、背中を押した一つでした。3ヶ月遅れて開幕し、改めて野球の楽しさを思い出した真砂選手。楽しくやれば、気分も上がるし、自然と体は動いてくれるんです!

 そして、実際に結果もついてきています。

 もちろん、ただ元気だけでプレーしているわけではありません。プロで経験を積んできた真砂選手は技術面でも確かな成長を遂げています。今季はその日のコンディションや球の見え方に応じて、足の上げ幅や踏み込みなどを日々修正しています。大道(典良)2軍打撃コーチは「今年は凡打の内容もいい。センター中心にどの方向にも打てている」と太鼓判を押します。

「去年までの失敗もあって打席の中での考え方も変わってきた。8年もやらせてもらって同じ失敗ばかりじゃだめなので」

 現在の取り組みに手応えを感じながらも、ひたすら模索を続けています。