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回し蹴りで虐待死、児童を2人突落とし……なぜ死刑にならないの? 3つの事件から見る裁判の仕組み

平成 女の事件簿「彼女たちの事情」

2020/08/11

source : 週刊文春WOMAN 創刊号

genre : ニュース, 社会

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法廷で見聞きしたことだけで判断する

【ケース3】非常に悪質な殺人なのになぜ死刑ではないのか?─高槻 養子縁組保険金殺人(平成22年)→懲役23年
※保険金をだまし取る目的で養子縁組した女性(36)を殺害。袋詰めにされた女性の遺体が堤防で発見された。養父母として女性の捜索願を出していた宇野ひとみ(35) 和馬(39)夫婦が女性の養父母にしては若過ぎることや、女性に多額の保険金を掛けていたことから関与が発覚。詐欺グループを結成し、ほかにも保険金殺人や交通事故保険金詐欺を繰り返していた。和馬の養父やひとみの実母も犠牲になっている。事件発覚後、和馬は練炭自殺を装って殺害されている。宇野ひとみは平成28年、最高裁が上告棄却し懲役23年が確定。佐々木一幸(42)は懲役20年。、詫間良治(39)は懲役22年、  死体遺棄のみのI・M(36)は懲役3年4カ月

 35歳の女性が養女にした女性に保険金をかけ、知人男性と共謀して殺害、遺棄した。実行犯は知人男性で、女性は殺人を共謀した。殺人を共謀した者も実行犯と同様の重罪です。

 一審は裁判員裁判でした。最高裁まで争われ、被告人(当時)は一貫して無罪を主張し、実行犯の「殺人を依頼された」という供述の真偽が最大の争点でした。判決では殺人の共謀があったと認められ、求刑が23年でしたから量刑も重かったといえます。

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 この女性は何度も姓を変えて詐欺を繰り返し、不審な死に方をした養父や母親にも保険金をかけていたことが報道されていました。そのため、懲役23年を軽いと見る人もいたでしょう。しかし、「日ごろから怪しげなことをしていた」「この人ならやりかねない」といった感情が量刑に影響を及ぼすことがあってはいけません。裁判ではあくまでも法廷に出された証拠のみで判断します。

 凶悪な犯罪、社会の関心が高い重大犯罪、死刑か無期懲役かを決める難しい裁判に一般市民が参加するようになって10年が経ちました。裁判員に選ばれていなくても、どうして死刑になったのか、どうして有期刑なのかという視点で事件を考えることは社会の一員として意味のある、とても大事なことだと思っています。

text:Atsuko Komine

週刊文春WOMAN (文春ムック)

 

文藝春秋

2018年12月29日 発売

回し蹴りで虐待死、児童を2人突落とし……なぜ死刑にならないの? 3つの事件から見る裁判の仕組み

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