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回し蹴りで虐待死、児童を2人突落とし……なぜ死刑にならないの? 3つの事件から見る裁判の仕組み

平成 女の事件簿「彼女たちの事情」

2020/08/11

source : 週刊文春WOMAN 創刊号

genre : ニュース, 社会

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人数だけで死刑と決めてはいけない

【ケース2】2人殺したのになぜ死刑ではないのか?─秋田 連続児童殺人(平成18年)→無期懲役
※川岸の道路脇で男児Gくん(7)の遺体が見つかり、その一カ月前にはGくん宅の二軒隣のAちゃん(9)も川で水死していたことから事件が発覚。 事故死扱いされていたAちゃんは、母親の畠山鈴香(33)に橋の欄干から突き落とされ水死。畠山は自分が殺害したにもかかわらず、当初Aちゃんを事故死と断定した警察に異議を申し立て、犯人捜しのビラを撒いていた。Gくんは絞殺して遺棄していた 。平成21年、二審が控訴棄却し、上告したが後に取り下げて無期懲役が確定

 33歳の女性が近所の男児を殺害して遺棄、その前月に事故死扱いされていた娘の転落死も女性が突き落としたものだった。

 これは幼い子ども2人に対する殺人罪で裁かれました。大変難しい裁判だったようです。

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 その争点を見ていく前に少し硬い話をしますが、最高裁は1983年、死刑を選択する際に考慮しなければならない9つの判断基準([1]犯罪の罪質、[2]動機、計画性、[3]態様、ことに殺害の手段方法の執拗性・残虐性、[4]結果の重大性、ことに殺害された被害者の数、[5]遺族の被害感情、[6]社会的影響、[7]犯人の年齢、[8]前科、[9]犯行後の情状)を示しました。永山基準と呼ばれるものです。刑事裁判ではこの基準が踏襲されています。

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 日常会話でも「2人殺したんだから死刑だね」というようなことを言いませんか。永山基準では殺害された被害者の数が重視されていますから、その感覚はある意味正しいんです。ただ、人数だけで死刑が決まるわけではなく、永山基準が示す項目を一つひとつ検討し、さらに過去の死刑のケースとも比較したうえで判断しなければなりません。

 この裁判で被告人(当時)は娘に対する殺意を否認しました。ケース1でも触れたとおり、殺意の有無は非常に重要です。捜査段階では殺意を認めているため、その自白の任意性が争われています。また、男児を殺害した“動機”もはっきりせず、“計画性”があったという立証も推認でしかないことから、永山基準に照らして死刑を選択することができなかったものと思われます。