「人が亡くなっている事件」でも、死刑判決が下されるとは限りません。無期懲役、あるいは有期刑になることもあります。
ニュースを見ていて「刑が軽すぎる」「裁判員裁判で自分が裁くとしたらどうするだろう」などと疑問に感じることもあるのではないでしょうか? このように刑が分かれるのはなぜなのか、平成に起きた3つの具体的事件を例に、弁護士の亀石倫子さんが説明します。
“殺した”と“死なせた”は違う
【ケース1】懲役8年は軽すぎるか?─尼崎 小1男児虐待死(平成13年)
※兵庫県尼崎市のS・T(24)、S・T(24)夫婦が、保護されていた児童養護施設から一時帰宅中のKくん(6)を虐待死。黒のポリ袋に詰めて運河に遺棄した。夫婦は再婚で、夫はKくんの継父だった。平成15年、二人とも一審で懲役8年が確定。既に刑期満了している
若い夫婦が起こした事件です。夫(継父)と妻(母)は素手や布団叩きで男児の顔や手足を殴打し、夫は回し蹴りもした。男児は脳内出血を起こし、まもなく死亡。夫婦は遺体をポリ袋に入れ運河に投げ捨てた。
これは傷害致死と死体遺棄の罪で裁かれました。殺意をもって“殺した”のであれば殺人罪に問われ極刑もあり得ますが、殺意はなく傷を負わせたことによって“死なせた”のであれば殺人にはならず、法定刑は3年以上の有期懲役です。今回のケースでは傷害致死罪で起訴されているので、その段階で「殺意はなかった」ことがわかっていたということになります。
そして驚かれるかもしれませんが、どんなにひどい捨て方をしたとしても死体遺棄罪の法定刑の上限は3年です。窃盗罪の上限が10年であることと比べても遺棄については軽いという印象は否めませんが、これが現行のルールです。
事件の概要だけに注目すると、この夫婦はなんてひどいことをしたのだ、もっと重い刑であって然るべきと思われるかもしれません。ただ、2人とも成育環境に問題があり、親から愛情をかけられずに育ちました。
男児を自分たちで育てようと引き取ったものの愛情のかけ方がわからず、自分たちがされていたように虐待してしまった――。そんな夫婦の背景には同情の余地があり、また反省の態度も認められ、懲役8年となったと思われます。夫婦があまりにも未熟であったために起きた悲しい事件でした。