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白人警官はなぜ黒人を殺害するのか 日本人が知らない差別の仕組み――2020上半期BEST5

「制度的人種差別」を知っていますか

2020/08/10

2020年上半期(1月~6月)、文春オンラインで反響の大きかった記事ベスト5を発表します。国際部門の第1位は、こちら!(初公開日 2020年月日)。

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 連日、全米で吹き荒れるデモと暴動。メディアには商店略奪の光景や、デモ隊と警官隊の衝突などショッキングな写真が溢れ、暴力を批判する声が盛んに聞かれる。

 だが、一連の事態の本質を理解するには、発端となった警官による黒人男性殺害事件、その背後にある黒人差別の実態、特に「systemic racism システミック・レイシズム=システム化された人種差別」(以下、本稿では「制度的差別」)を知る必要がある。  

©getty

 まず事件の経緯を記す。 

白昼の中、首を「8分46秒」膝で抑え続け殺害

 5月25日、ミネソタ州ミネアポリスの路上で、警官が黒人男性ジョージ・フロイド氏の首を膝で「8分46秒」抑え続けて殺した。フロイド氏は後ろ手に手錠を掛けられて地面にうつ伏せにされ、身動きできない状態であった。 

 その様子は通行人の17歳の少女によって撮影されている。フロイド氏は「息ができない! I can't breathe!」と何度も繰り返し、「あぁー!」と悶絶の叫び声を上げている。警官は顔色ひとつ変えない。通行人たちが警官を止めようと叫ぶが、警官は微動だにしない。やがて到着した救急救命士がフロイド氏をストレッチャーに乗せるが、その時点で既に脈はなかった。 

 白昼、衆人環視の中で白人警官が黒人をリンチ、殺害する映像はSNSで瞬く間に拡散された。全米、全世界が、時間をかけてゆっくりと殺されていく人間の顔を、まさに息を呑んで見つめ続けたのだ。 

警察の弾圧は激化、ゴム弾で片目を失ったジャーナリストも

 翌26日には地元ミネアポリスで抗議デモが起こり、人々はフロイド氏が繰り返した「I can't breathe!」(息ができない!)および「Black Lives Matter!」(ブラック・ライヴズ・マター)を連呼した。 

 ブラック・ライヴズ・マター(BLM)は、2012年にフロリダで当時17歳の黒人少年トレイヴォン・マーティンが自称自警団の男に射殺された際に起こったムーヴメントの名だ。「I can't breathe!」は2014年にニューヨークで起こった、今回とほぼ同様の事件で亡くなった黒人男性エリック・ガーナー氏が息絶える前に繰り返したセリフでもある。 

 デモはやがて全米50州に広がっていく。平和的なデモがある一方、デモ隊と警官隊との衝突、商店の略奪が起こった。デモ開始から数日後、主犯の警官デレク・ショウヴィンは第2級殺人容疑、他の3人の警官(うち2人はアジア系)は第2級殺人ほう助教唆容疑で訴追された。この報に人々は喜んだが、デモはその後も続き、警察からデモ隊への暴力はますます激しくなっている。 

デモで怪我をした女性 ©getty

 多くの白人もデモに参加するなか、高齢の白人男性が警官によって押し倒されて後頭部を打ち、集中治療室に運ばれた。白人の大学生は警棒で頭を殴られ、20針縫った。現場取材するジャーナリストへの警官による過剰な暴力も多々見られ、ゴム弾を受けて片目を失明した女性ジャーナリストがいる。6月6日の時点で警官を含む、少なくとも11人が亡くなっている。 

トランプはツイッターにて軍投入を指示

 フロイド氏殺害事件とデモは、コロナ禍による各州のロックダウンが解除されつつある時期に起こった。トランプは経済再開と大統領再選キャンペーンに躍起になっており、当初、事件について一切語らなかったが、やがてツイッターにて略奪鎮圧のための軍投入を示した。

 抗議デモ開始から7日目の6月1日、ようやく大統領としての公式声明を発したが、銃所持の右翼たちに「自衛のために銃を取れ」と示唆する内容だった。トランプは黒人差別問題への共感もなければ、今、アメリカの足元に大きな地割れが起きていることにも気付いていないのだ。 

 だが、多くの人が今、事件とデモを理解し、解決策を模索するために「制度的人種差別」について盛んに語り合っている。