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2020/08/10

目に見えないため、解消が難しい「制度的人種差別」 

 黒人を「黒人である」というだけの理由で殴り、もしくは黒人への侮蔑語であるNワードを投げ付ければ、それは明らかな人種差別だ。黒人たちは今もこうした直接的な差別行為に苦しめられているが、同時に一見、差別には見えず、ゆえに解消するのも非常に難しい異なる種類の差別「制度的人種差別」とも闘っている。 

 制度的人種差別とは、社会的弱者が不利となる仕組みが社会構造に取り込まれており、黒人が黒人として生まれただけで、以後の人生が自動的に不利の連続となることを指す。 

 北米にアフリカからの黒人が初めて連行されたのは、今から401年前だ。以後、約250年にわたって奴隷制が続いた。奴隷解放後も黒人差別はなくならず、黒人の人権を認め、差別を撤廃する公民権法が制定されたのは1964年のことだ。その後も差別は続き、毎年、多くの黒人が警官や銃を持つ一般市民に殺害され続けている。 

 奴隷制度に由来するレイシズムがあるため、人種の融合は今も進まず、人種別のコミュニティが形成され、多くの黒人が黒人地区で生まれ育つ。貧困により満足な衣食住を賄えず、教育の機会も奪われ、したがって就職もままならず、貧困から抜け出せない。 

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教育の機会に存在する落とし穴

 制度的差別に気付かない部外者は、教育が貧困脱出の手段であることから「貧しくとも奨学金で進学できるじゃないか」と言う。だが、貧困地区に生まれた子供と豊かな地区に生まれた子供では、幼児期に自然に取り込める語彙、思考訓練、文化との接触の量がまったく異なる。つまり黒人の子供たちは就学時点で学力的にすでに大きく出遅れていることになる。

 さらに、米国の公立学校の財源はほとんどが固定資産税で賄われており、貧困地区と裕福な地区の極端な税収格差が、子供たちが受ける教育格差に直結している。こうした要素が重なり、貧しい黒人の子供たちが学力格差を克服するのはほぼ不可能に近いとさえ言われている。

 優位に立つ側はこの構造に気付かず、社会から取りこぼされて貧困、低学歴、犯罪といった負のサイクルから抜け出せない黒人を「怠惰」「無能」「犯罪者」と見下す。または音楽、スポーツ、体格などに限っては黒人を褒めそやす。子供の頃からこうした扱いを何度も体験すると自尊心が傷付けられ、能力があっても発揮できなくなる。 

教育の機会に恵まれたとしても……

 それでも公民権法の効果もあり、中流化する黒人も徐々に増えた。ただし、制度的人種差別の結果として優位者側に植え付けられた黒人への負のステレオタイプはいまだに消えてはいない。ミシェル・オバマがプリンストン大学に進学した際、学生寮で同室となった白人学生の母親が「自分の娘と黒人を同室にするな」とクレームをつけたのは有名なエピソードだ。

 大学や院を出て就職しようにも、履歴書の名前が一見して黒人と分かるものであれば面接に呼ばれる率は格段に減る。入社はできても出世の階段は、殊更に険しい。 

 教育を受け損ねた者には司法制度の制度的人種差別が待ち受けている。就職が出来ず、良い影響を与えてくれるロールモデルもおらず、それらが理由で犯罪に走ると、逮捕、裁判所、刑務所のサイクルから抜け出せなくなる法的、社会的なトラップがある。