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まずは、性欲があるということを認めよう

 

川崎 現代人はセックスをおおらかにとらえてないんですよね。

二村 出発点が「ヤリたい」という欲望じゃないからなんじゃないかな。本来とは違う目的のためにセックスを使っているから。

川崎 多くの男女がそういうストッパーを自ら設定しているんですよ。男性も真面目すぎて、「ヤリたいから口説く」みたいな感じではなく、セックスを重大なものと位置づけている。だから、より面倒くさくなって、遠ざかりますよね。だったら彼女なんかいらない、セックスなんてしなくてもAVがあればいい、みたいな。

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二村 まあ、江戸時代だって、男のほうがあまっていて、娼婦もたくさんいて、性病も蔓延していたから、一生涯、一般の女性とセックスできず、春画でオナニーするしかなかったという男性はいっぱいいたでしょう。そういう意味では現代と状況が変わっているわけではないという感じはします。けれど、現代の若者がセックスそのものを否定するのはおかしいよね。自分の中に性欲があるということは認めた方がいいんじゃないかな。欲望がエネルギーになると素直に考えた方が性格が明るくなると思うので(笑)。

川崎 だって春画って、見てもいやらしい気持ちにならないんですよね。先日、井原西鶴の『日本永代蔵』を読んだのですが、江戸時代、町人はみんな自分で商売して生きていくしかなくて、生活保護などの社会保障制度がない究極の自己責任の世界なんですよね。だから商売に失敗して貧乏になっても、自分でなんとかやりくりして生きていかなければいけないのですが、その中で性風俗がどれだけ彼らの癒やしになっていたことか。

 そんなことに思いを馳せながらこの春画の本を読むと、余計おもしろく感じたんです。春画からは、稼ぐぞ、生きていくぞ、男女でまぐわうぞというような、現代の人びとがなくしてしまっている生活者としての生きるエネルギーが強く感じられる。だから、特に若い人に読んでほしいし、春画を見てほしい。

 

二村 いまは僕くらいから上のおじさんのほうが、あっけらかんと「ヤリたい」といって、若い女性を取ってっちゃうことも多いじゃない。若い人はそれに負けないように、性のエネルギーをつけないとね。

川崎 そうなんですよ。この本に、元々春画は『好色一代男』の挿絵として発展したと書いてありましたが、二村さん書いてくださいよ、『平成版・好色一代男』を。そして生きるエネルギーをこの世界に生きる男女に注入してください(笑)。

二村 ハハハ、実は僕もびっくりしたんですけど、この本に人間の顔がちんこやまんこになってる春画(『万福和合神』色摺半紙本)があるじゃないですか。僕、子供の頃、無意識にずっとこういう絵を描いてたんだよね(笑)。

川崎 すごい、やっぱり二村さんって、この時代の人と同じことしていたんですね。しかも小さい頃から(笑)。

会期は2015年12月23日まで。

川崎貴子(かわさき・たかこ)
1972年生まれ。1997年、人材コンサルティング会社(株)ジョヤンテを設立。女性誌での連載、執筆、講演多数。著書に『上司の頭はまる見え。』(サンマーク出版)、『愛は技術』(ベストセラーズ)。最新刊は『私たちが仕事を辞めてはいけない57の理由』(大和書房)。ふたりの娘を持つワーキングマザーでもある。

二村ヒトシ(にむら・ひとし)
1964年、六本木生まれ。幼稚舎から慶應義塾で育ち、慶應義塾大学文学部中退。アダルトビデオ監督。女性側の欲望・男性の性感・同性愛や異性装をテーマに革新的な作品を発売。著書に『すべてはモテるためである』『なぜあなたは「愛してくれない人」を好きになるのか』(イースト・プレス)、共著に『オトコのカラダはキモチいい』(KADOKAWA)、対談集『淑女のはらわた』(洋泉社)。

構成 山下久猛(フリーライター)