日本、韓国が「報復」を受ける可能性
――ただ、文在寅大統領は韓国の同意なしには駐韓米軍は動かせないと明言しています。
「米国は自衛のために軍事攻撃できるとしています。ただし、これには条件があって、駐韓米軍ではなく、海外に駐在している米軍、駐日米軍などが参加することになります。駐韓米軍を使えば、中国が軍事介入することを示唆しているのでこのカードは使わないでしょう」
――先制攻撃すれば、北朝鮮も報復に出るのではないでしょうか。
「韓国、日本に対して報復を行うかもしれない。韓国の場合は、2010年11月に延坪島が長射程砲で砲撃されましたが、威力は大きくないことが分かっています。私も現地に足を運びましたが、コンクリートは貫通できていなかった。亡くなった民間の方2名は道に出て逃げ惑ったためで、家にいた方たちは助かっています。ソウルにもし報復砲撃されても、地下鉄やマンションの地下駐車場に逃げればそれほど大きな被害はないと思います。そこまで行く時間がなければ、南側の部屋にいれば安心です。
また、日本へ報復するとしても迎撃が可能な威力の低いものになると考えられ、心配するには及びません。なにより北朝鮮はこの時には指揮機能が麻痺していて組織的に動けない」
北朝鮮に対して取りうる5つの選択肢
――全面戦争に発展する可能性は?
「北朝鮮は無能化している状態になる、冷却期間となります。全面戦争の準備には2~3週間かかる。その間、国際社会がだまっていないでしょう。朝鮮戦争は代理戦争で、韓国には戦車一台もありませんでした。しかし、今は違います。中国もあのときは北朝鮮を助けましたが、今は持っているものが多すぎる。全面戦争しても失うものが多く、得るものがありません」
――先制攻撃の前にできることはないのでしょうか。
「北朝鮮に対してできることは5つあります。まず、金正恩委員長の斬首。しかし、金正恩委員長を斬首しても次に代わる人物が核を握れば意味がない。また、中国の介入を招きかねない怖れがあるため、韓国でも資料作りはされましたが、計画には入りませんでした。次に政権交代。しかし、これには北朝鮮にネットワークが必要で、時間がかかりすぎる。残りは、先制攻撃とアチソン・ライン(不後退防衛ライン)による米国の韓国放棄、そして平和協定です。アチソン・ラインは厳密には朝鮮半島を含んでいませんから米国は韓国を放棄できますが、これは現実的ではない。ですから、先制攻撃しか残らないのです」
――文大統領は、8月23日、膠着する南北関係について「厳しい冬でも春(統一)は必ず来る」と話し、対話の条件も低くなっています。北朝鮮との対話路線を掲げる文大統領の「浪漫的政策」はやはり“夢”なのでしょうか。
「北朝鮮が先制攻撃されれば、核さえ開発すれば安泰とすり込まれていた国民から金正恩委員長への不満が噴出し、内乱になるでしょう。次のリーダーが生まれる可能性が高い。そうなると、政治の名分は、安保と経済、そして、自由です。これを手にするには、外からの助けが不可欠になります。それができるのは韓国しかいません。そうなれば、むしろ、統一が迅速に行われることになるのではないかと考えます。半年以内に深刻な局面を迎えるかもしれないこの危機的状況を回避するすべてのオプションを韓国政府は準備すべきと考えます」
金珉奭所長は最後にこうつけ加えた。
「米国が北朝鮮と平和協定を結べば、韓国にとっても国際社会にとっても新たなゲームが始まることになります」
(インタビューは8月25日に行い、8月29日のミサイル試験発射を受けて追加取材して構成した)