コロナウイルスの感染拡大が一向に収まらず、スポーツやエンターテインメント業界は壊滅的な打撃を受けている。そんな中でひとり気を吐いているのが、プロ野球である。

 6月19日の無観客での開幕後、すでに各球団50試合以上を消化(8月24日現在)。7月10日からは最大5000人までという制限付きながら、観客を入れて試合を行いつづけている。夏の甲子園までが中止になる中、プロ野球は日本人にとってのナショナルパスタイム=国民的娯楽の役割を大いに果たしている。

分水嶺となった「5月12日の臨時オーナー会議」

 巨人軍オーナーの山口寿一・読売新聞グループ本社社長は、「文藝春秋」9月号および「文藝春秋 電子版」に寄稿した「プロ野球、コロナと戦う」と題する手記の中で、日本でコロナの感染拡大が始まった2月当時の心境をこう綴っている。

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6月19日、東京ドームの巨人戦開幕

〈瀬戸際という言葉に力を込める尾身茂専門家会議副座長をテレビで見ながら、プロ野球は開幕できるのかと危機感を持った。同時に、不安が広がる世の中にプロ野球の力を送りたいという気持ちも湧いた〉

 しかし、ここまでの道のりは決して平坦なものではなかった。とりわけ大きなポイントとなったのは5月12日、史上初めてウェブで行われた臨時オーナー会議だった。

「無観客での開催に対する葛藤はあった」

〈4月7日、政府は緊急事態宣言を発令した。緊急事態宣言の期間中もプロ野球とJリーグの新型コロナ対策連絡会議はオンラインで会合を重ねた。水面下では斉藤コミッショナーが調整に動いていた。そのおかげで、無観客で6月下旬の開幕をめざすこと、公式戦を120試合に絞るが、日本シリーズは行う方向で12球団の社長レベルはまとまりつつあった〉(同前)

山口寿一氏(読売巨人軍オーナー)

〈ただし、無観客での開催に対する葛藤はあった。それは特にパ・リーグのオーナーの間に強く、無観客試合を疑問視する意見、無観客とするなら選手年俸の減額を考えたいという意見、公式戦の中止も視野に入れるべきという意見が入り混じっているようだった〉(同前)