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なぜ“高卒プロ”にこだわるのか

 そもそもなぜ“高卒プロ”にこだわるのか。凌平にはキラキラした目を輝かせながら追いかけてきた背中がある。それが何を隠そう、阪神タイガースの選手たちだ。

 佳介さんが阪神ファンだったことから、細川家の食卓にはいつも阪神戦のテレビ中継が欠かせなかった。幼稚園でおともだちが仮面ライダーごっこをしていても、凌平は先生に「みて! かねもと!」と真似をしてみせ、野球談議に花を咲かせていたという。

阪神グッズを身に着ける細川凌平

 観光シーズンが落ち着く2月には毎年キャンプにも足を運んだ。沖縄を訪れても選手のようにホテルと球場の往復のみ、一切観光せずに穴が開くほど選手たちをみつめていた。想い出の写真も撮り忘れるほどかっこいい選手たちに釘付けだった。「ほんまにかっこいいんです! 阪神の選手はみんなかっこいい!」。輝いた眼はドラフト候補ということを忘れるほど阪神ファンの少年であることを思わせる。

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 父と訪れた高知県・安芸キャンプでは宿泊していたホテルの風呂場で選手と一緒になったこともあった。当時9歳だった凌平に福原忍(現・投手コーチ)や藤川球児などが温かく接してくれた。プロ野球選手になるよりはるか前に選手たちと裸の付き合いを済ませているのだ。

甲子園球場にて

 プロ野球選手、そして阪神への想いは募るばかりだった。智辯和歌山へ進んだのも「プロを経験されている監督の下で色々な体験談を聞いて教わりたい。甲子園だけでなく、その先のことも考えて選びました」。大好きな阪神のOBである中谷仁監督のもとで過ごすことで“高卒プロ”への最短ルートを選択。「何をするにもとにかく準備が大切ということを学びました」。2年5か月でプロへの準備はしっかりできた。

 凌平の小学校の卒業アルバムはこう始まっている。

「僕の将来の夢は、プロ野球選手になることです。できれば、大好きな阪神タイガースにドラフト1位で指名してもらいたいと思っています」

小学校の卒業アルバム

 それだけではない。既に矢野阪神の一員であるかと思わせる一言も、添えられていた。

 ~思い描こう未来の自分を!~

 人を喜ばせる人になりたい 細川凌平

父・佳介さん提供

 出来すぎている。完璧なまでの予祝に、誰かを喜ばせたいという気持ち。小学校6年生で阪神のチームテーマと同じ気持ちを持っていたのだ。

 進路は未定としながらも、ある球団スカウトは「3拍子そろっていて万能」と評価する。漫画の主人公はおそらくプロ志望届をワクワクしながら準備しているはずだ。阪神ファンの野球少年が憧れの選手たちと一緒にプレーする姿を本当に見られそうな気がする。きっと縦じまのユニホームで聖地を駆け回るだろう。ハイカットのスパイクで――。

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