いまから20年前のきょう、1997(平成9)年9月6日、イタリアのベネチア国際映画祭で、北野武監督(当時50歳)の『HANA-BI』が金獅子賞(グランプリ)に選ばれた。同作は、不治の病の妻(岸本加世子)に付き添い続ける北野演じる元刑事と、犯人に撃たれて半身不随となり家族から捨てられた同僚刑事(大杉漣)を対比させながら、生と死を描き出した。
1989年に『その男、凶暴につき』で監督デビューして以来、コンスタントに作品を発表し続けてきた北野だが、国内では興行的に振るわなかった。しかし海外、とくにヨーロッパでは早くより高く評価されていた。『HANA-BI』もまた、ベネチアでの公式上映(9月3日)の終了後10分以上、拍手が鳴りやまないほど絶賛を受ける。フランスの『ル・モンド』紙は、上映直後に早々と「ベネチアが北野武を幸いにも発見、受賞は確実」との見出しを掲げた。
受賞作は、6日夕方の正式発表を前に、同日午後1時にはプレス向けに発表された。北野もこのときホテルの部屋で電話を受け、受賞を知らされる。すでに取材陣が待ちかまえており、朗報を伝えられた瞬間、部屋にテレビカメラが入って来たため、彼は思わず「どっきりカメラだろ、これ」と口にしたという(北野武編『コマネチ!―ビートたけし全記録―』新潮文庫)。
帰国した9月9日の会見では、金の獅子像を見せてほしいという報道陣に、北野は「これなんですけどね」と、ポケットから土産物のミニチュアの獅子像を取り出すと、「授賞式ではおれもまだスモールなタレントだったが、今はビッグになったから小さく見える」とジョーク交じりに語り、笑いを誘った(『朝日新聞』1997年9月10日付)。
北野はその後、2003年のベネチア国際映画祭でも『座頭市』で監督賞にあたる銀獅子賞を受賞。今年の同映画祭では9月9日の授賞式のあと、クロージング作品として最新作『アウトレイジ 最終章』が上映される予定である。