いまから50年前のきょう、1967年4月9日、NET(現・テレビ朝日)で『日曜洋画劇場』の放送が開始された。もともと前年の10月1日に『土曜洋画劇場』としてスタートしたのが、この日より解説の淀川長治(当時57歳)とともに日曜に移動、その最初の回ではケイリー・グラント主演の『誇りと情熱』(スタンリー・クレイマー監督、1957年)が放映された。
『日曜洋画劇場』は淀川長治なしには生まれなかっただろう。もともと『映画之友』という雑誌の編集長だった淀川は、同誌で「友之会」を組織し、読者を集めて映画について語った。これを機に映画評論家、解説者として知られるようになる。テレビでも、アメリカ製のテレビ映画『ララミー牧場』で「西部こぼれ話」というコーナーを担当、出演俳優について解説したのが好評で、これが『洋画劇場』へとつながった。
その名調子は、傑作選としてDVDもリリースされており、いまでも堪能できる。俳優や監督に注目したり、あるいは見どころを滔々と語ったりと、毎回手を変え品を変えての解説は、まさに名人芸。たとえば『旅情』の解説では、カメラワーク、音楽のすばらしさについて一通り語ると、次の点を強調して作品へといざなう。
「これはイタリアの男と、アメリカの女の愛と、恋ですね。イタリアの男がどんな立場でどうなっていくか。アメリカの女が恋に酔ったときにどんな立場でどうなっていくか。さあ、その締めくくりが、見事ですねえ」(DVD『日曜洋画劇場40周年記念・淀川長治の名画解説』収録)
淀川はこのあと、映画を観終わった視聴者向けに、あらためて名シーンを振り返っている。その語り口はすっかり物語にのめりこみ、じつに熱い。
あるいは、ブルース・リー主演『燃えよドラゴン』の解説では、まず「お父さん、お母さん、どんなに若い人がこの映画を好きか、きょうはご一緒になってじっくりご覧なさい」と、家族でそろって視聴されていることを意識して語りかける。思えば、まだレンタルビデオもなかった時代だ。60~70年代に子供だった世代には、脚本家の三谷幸喜をはじめ、『日曜洋画劇場』で初めて洋画と出会ったという人も多いことだろう。
淀川が1998年に89歳で亡くなったあとも、『日曜洋画劇場』は継続されてきた。だが、ここ数年は毎週の放送ではなくなり、この春の改編ではついに枠自体が消滅してしまった。しかし『日曜洋画劇場』の果たした役割には、今後もテレビが継承していくべきものも多いはずだ。淀川サンのお約束の文句ではないが、このまま「サヨナラ、サヨナラ、サヨナラ」にはしてほしくない。ちなみに明日、4月10日は淀川長治の誕生日である。