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最優先すべきは“個としての仕事”…高橋慶彦がいま、選手たちに伝えたいこと

文春野球コラム ペナントレース2020

2020/10/02

 全国のカープファンの皆さま。元広島東洋カープの高橋慶彦です。まずは7月に娘が書いたコラムにたくさんの反響をいただき、ありがとうございました。もちろん自分も読みました。多くの方から「感動しました」あるいは「すごく良かったです」といった感想をもらい、とても嬉しかったです。

高橋慶彦 ©ガル憎

今年のカープには「船頭」がいないのかもしれない

 さて。佐々岡新監督のもとで2020年シーズンを迎えたカープですが、残念ながら戦績が奮わず下位に低迷し続けています。そんな中、周囲から「カープはもう消化試合だから選手のモチベーションも下がっているのかな」という言葉を耳にしました。たしかに今年はCSが無いので、チームとしての目標のようなものが無くなり、結果として消化試合という感覚になられている方が多いのかもしれませんが、自分はこの消化試合という言葉があまり好きではありません。

 野球選手というのはチームに属し優勝やCSを目指して戦うわけですが、いちばん大事なのは自分の成績です。チームである前に個々の集まり。プロとしてやったことに対して報酬をもらうわけですから、チームが強かろうが弱かろうが、極端に言えば知らんぷりしてないといけないんです。まずひとりの野球選手としてどうするべきか。優勝やCSといった目指すものが無いなら、なおさら考えなきゃいけない。プロ野球選手というのは1年間、契約して野球をやっているんだから、モチベーションは関係ない。給料分は働くのが当たり前。消化試合だろうとなんだろうと、環境に左右されたら絶対にダメです。

現役時代 ©文藝春秋

 今年のカープが弱いのは、もしかすると選手の中に「船頭」がいないのかもしれませんね。たとえば「水」を想像してください。水は、放っておけば好きな方向に勝手に流れていきます。自分が現役だったころは(山本)浩二さんやキヌさん(衣笠祥雄)という船頭がいましたが、チームにそういう存在の人がいると、ス~ッと水の流れがまとまってくるんです。大きい流れをひとつの流れにまとめるような。水は、静かな時もあれば溜まる時もある。ただ流れる時もある。なにより、大きな石を流すほど強い力を生み出すことがある。チームが崩れる時というのは、その水の流れがまとまってない、船頭がいない時なのです。

 そういう意味で考えると4番の鈴木誠也などは浩二さんやキヌさんのような存在であってほしい。ただ、まだ26歳と若いですよね。その若さゆえなのか、最近は、納得のいかないプレイをしたあと、凡打のあとなどにベンチ内で感情をあらわにすることが多くなったと聞きました。きっとチーム状況が悪いことに責任を感じてるんだと思います。自分が監督なら「暴れるんなら裏で暴れろ」と言いますが、やはり責任感の現れでしょう。自分のプレイだけでなくチームが負ける責任も被ってしまっている。チーム事情が良ければ自分が打てなくても「うわ~打ち損じた」で終われますからね。そういう意味では、自分の時の浩二さんやキヌさん、3連覇したころの黒田や新井。いわゆる「気にするなよ、俺らもいるから大丈夫だよ」という柱、船頭が必要ということになるでしょう。もちろん、鈴木誠也はその立場になるべき選手です。

 強いチームというのは「ハンコを押す」だけなんですよ。固定された先発メンバーに対してハンコを押す。控え選手に対してハンコを押す。決まってるメンバーがいて、あとはハンコを押す。あれこれ考えるんじゃなくて、仕上がっているものに対してポンとハンコを押すだけ。それが強いチーム。いまのカープは、スタメンしかり、もしかすると「これにハンコを押して大丈夫かな?」みたいな迷いがあるのかもしれません。1番バッターをとっても、完全にこの選手でいく、という「職人」のような選手がいない。いないというか、固定できない。佐々岡監督は、そういう部分で苦労しているのではないでしょうか。