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老若男女すべてが「母であれ」

 いまにして思えば、変化の兆候はこのころ現れていたのかもしれない。40代に入ってからは、前出の『ゲゲゲの鬼太郎』や『ドラゴンボール超(スーパー)』といったテレビアニメの主題歌(「限界突破×サバイバー」は後者の主題歌)も歌うようになった。これに対し、従来のファンなどからは「どこに行こうとしているの?」と戸惑う声もあったようだが、しだいに評価する人も増え、自信と確信につながっていく。《もちろん演歌も大切にしますが、ほかの分野にもチャレンジしていきたい。別の自分になれるみたいで、すごく楽しいんです》とは、2018年のインタビューでの発言だ(※6)。歌のジャンルの幅を広げるにともない、彼自身も大きく変化するにいたった。

2018年の紅白リハーサル ©文藝春秋

 そんな氷川を、受け入れる人も大勢いる一方で、一部には否定的な見方もある。本人もネットで悪口のような書き込みを見ては、落ち込んでいたという。だが、その後、《今はへっちゃら。むしろ、そこまで自分のことを考えてくださっているんだと愛おしさすら感じます》とポジティブにとらえるようになった。この発言に続けて《その方たちを母のような気持ちで包み込んであげたい。私は、老若男女すべて「母であれ」と思っています。大地のような寛容さで包み込む母なる心が人間を、そして世の中を平和にするのだと思います》と述べているのには、崇高さすら感じてしまう(※2)。

歌のジャンルを自由に行き来、自分を解き放った43歳……そして今後は?

「母であれ」と説く氷川は、今年2月にはその名も「母」というシングルをリリースしている。以前から、いつかきっと母をテーマにした歌をうたいたいと考え、タイトルもこの漢字1文字と決めて機会を待っていたという(※2)。なかにし礼の作詞、杉本眞人の作曲による同曲は、母への感謝を歌った、どこか70年代のニューミュージックを彷彿とさせる演歌だった。これに対し、6月にリリースした「Papillon(パピヨン)」は一転してロック調の楽曲となり、ミュージックビデオにもビジュアル系アーティストのようなルックスで出演している。さらにフレディ・マーキュリーの誕生日だった9月5日には前出の「ボヘミアン・ラプソディ」のカバーを、自身の誕生日であるきょう9月6日には新曲「キニシナイ」をあいついで配信リリースした。

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2020年2月にリリースした『母』

 歌うジャンルの枠を突破しながら、それまで自分を縛っていたものを解き放った氷川は、果たしてこれからどんなふうに年齢を重ねていくのだろうか。服部克久が予測したとおり、20年近くあとにはおそらく紅白歌合戦で白組の屋台骨を背負っているはずだが、そのとき彼がどんな変貌を遂げているのかは、まだ誰も想像がつかない。

※1 『Newsweek日本版』2020年1月24日配信
※2 『婦人公論』2020年2月10日号
※3 『週刊現代』2003年6月7日号
※4 『サンデー毎日』2005年3月27日号
※5 『婦人公論』2014年8月22日号
※6 『婦人公論』2018年9月25日号