いまから6年前、『文藝春秋』2014年2月号の「『20年後の日本』への50の質問」という特集で、先ごろ亡くなった作曲・編曲家の服部克久が、その時点で20年後(つまり2034年)のNHK紅白歌合戦について予測していた。服部はそのなかで、《個人的には楽器だけとか踊りだけのグループも出て欲しい》などと大胆な提言をする一方で、20年後に白組の屋台骨を支えている歌手は氷川きよしだと予測した。記事のタイトルにも「紅白の大トリはサザン? 氷川きよし?」と彼の名がサザンオールスターズとともにあがっている。
ちなみにサザンは同記事の出た20年後どころか、早くも4年後の2018年、平成最後の紅白で大トリを務めた。氷川も昨年の紅白で、大トリこそすでに活動休止を発表していた嵐に譲ったものの、トリ前に登場して存在感を示した。服部は20年後、50代後半になった氷川は《今と違い、しみじみとした演歌を歌っていると思います》と予測したが、少なくとも昨年の変貌ぶりを思えば、それも覆されるかもしれない。
デビュー20周年、王子様からフェミニンな姿への変貌
昨年の紅白での氷川はとにかく鮮烈だった。「紅白限界突破スペシ
きょう9月6日はその氷川の43歳の誕生日だ。デビュー20周年を迎えた昨年には、公式インスタグラムも開設し、長髪でメイクもばっちり決めた妖艶なビジュアルが話題を呼んでいた。それまでの王子様的なイメージから一転、どこかフェミニンな姿への変貌はたしかに衝撃ではあったが、案外、多くの人はその後すぐにすんなり受け入れたのではないか。昨年の紅白ではまた、氷川に続き登場したMISIAが、ステージでLGBTの象徴であるレインボーフラッグを掲げるなど、ジェンダーの多様性を謳った。これについて紅白の制作統括を務めたNHKの加藤英明チーフプロデューサーは、氷川が注目されたのも、MISIAの演出につながるものと考えていいのかと訊かれ、次のように答えている。
《氷川さんの場合は、「演歌界のプリンス」と言われた20年間で築き上げてきたアーティスト像を打ち破って、今の表現に行きついたことに世の中がびっくりし、共感しているから、あそこまで話題になったと思うんです。彼の場合は、特にご自身のセクシャリティーに言及しているわけでもないし、ただ一貫しているのは「自分らしく生きていく」という発信。紅白の現場でもその決意を感じましたね》(※1)