9月8日、自民党総裁選が告示された。ほかの候補に先駆けて安倍晋三首相の辞任会見直後に出馬表明を行った岸田文雄政調会長だが、報道機関による各種世論調査では菅義偉官房長官と石破茂元幹事長に大差をつけられ、いずれも3位に沈んでいる。政調会長としてコロナ対策に当たったものの、十分なリーダーシップを発揮できず、「乱世のリーダーは岸田じゃない」といった声も囁かれる。
岸田氏に総裁選への意気込みを尋ねると、政治家として体験してきた権力闘争を振り返り、厳しい戦いに向けた覚悟を語った。
「政治家人生を振り返れば、節目節目で激しい権力闘争に直面してきました。初当選の1993年は細川護熙内閣が発足し、自民党が初めて下野した年。まさに乱世でした。新党ブームの中で政局が目まぐるしく動き、権謀術数が渦巻く中で国会議員としての第一歩を踏み出したのです」
「加藤の乱」の教訓
岸田氏が最も印象に残っている権力闘争は、2000年11月に起きた「加藤の乱」だという。当時、宏池会の会長だった加藤紘一氏は、野党が提出した森喜朗内閣への不信任決議案に同調して倒閣に動いた。ところが、自民党執行部の猛烈な切り崩し工作に遭い、結局、加藤氏は涙ながらに「名誉ある撤退」を決断し、クーデターは失敗に終わった。
「私は宏池会の一員として最後まで加藤先生を支えましたが、この結末を見て、ひとたび戦いを始めたら、勝つまで戦い抜かなければならないと肝に銘じました。これは、今の境遇にも当てはまります。総裁選はいわば究極の権力闘争ですから」