文春オンライン

百貨店、起死回生のカギはアートにあるか――人工物に生命を宿らせる牧田愛の絵画作品

アート・ジャーナル

2020/09/19
note

あまりにもなまめかしい無機物の姿

 会場で出逢えるのは一見抽象画のような絵画だけど、じっと眺めていると、描かれているものがぼんやりとわかってくる。何やら機械っぽいものを至近距離から見たような絵柄だ。

 光沢ある表面を持った金属質のものが折り重なっていて、ところどころにボルトやパイプが見えたりもする。これはクルマやバイクのパーツなのか、巨大工場の一部をクローズアップしたものか、はたまた楽器の姿が変形しているのかもしれない……。

 いずれにせよ無機物の集積だろう。でもそれらの表面を見つめていると、妙になまめかしい感覚に襲われるのが不思議だ。描かれているのはツルツルとして硬そうなものばかりなのに、それらが精細に描かれるほど生々しさは増し、画面の中で何かがうごめいている! とたしかに思わせる。

Composition-landscape

ADVERTISEMENT

 実際のところ描き手の牧田は、このモチーフが人工的なものであることは明らかにしている。ただし人工を人工のまま表したいわけじゃない、それらを組み合わせることで生命のかたちを構築せんとしているのだ、とも言う。

 人工から生命を構築する、とはどういうことか。おそらくはこうだ。

 もともと人間は、自然に働きかけることで、人工物の数々をつくりあげてきた。ビルもクルマも電化製品も、もとをたどれば自然物を組み合わせたりうまく利用するところから始まって、長い時間をかけ徐々に高度な産物として完成されていった。

 ということは、だ。一つひとつの人工物には、人類のこれまでの営みがすべて詰め込まれているとも言える。モノを虚心に眺めることで、そこに生命の歴史を垣間見ることだってできるはずじゃないか。

 そんな生の営みを表さんとして、牧田は人工を画面に描き込んでいるのだろう。