現代美術界の第一線をひた走る鬼才、会田誠が新作を発表!
とはいえそれは絵画でもなければ彫刻でもない。
意外や、小説というかたちをとった作品である。
タイトルは『げいさい』という。ときは1986年の秋。とある美大の学園祭「芸祭」での一夜の出来事が、佐渡島出身の美大進学志望浪人生・本間二朗を中心に活写されていく。日本美術界への問いかけをたっぷり含んだ青春群像劇だ。
この刊行を機に対談の場が設けられた。お相手は、漫画家・山口つばさ。
代表作にして現在も月刊「アフタヌーン」に連載中の作品『ブルーピリオド』(第1話はこちらから)は、イマドキの高校生・矢口八虎がひょんなことから絵を描くことに目覚め、多様な仲間たちとともに美大を目指す物語。「マンガ大賞2020」大賞を受賞するなど、人気と評価を一身に集める話題作である。
ともに『ブルーピリオド』の作品内でも「日本一受験倍率が高い学科」と紹介されている最難関「東京芸術大学」の絵画科油画専攻に学び、それぞれ現代美術界と漫画界でトップを張る会田誠と山口つばさ。両者の交わす言葉、じっくりご鑑賞のほど。
(全2回の1回目。後編を読む)
(構成=山内宏泰)
存在を知ったときは「これはヤバいな(笑)」
会田 山口さんが描いている『ブルーピリオド』、白状しますと、実はつい最近まで読まずじまいだったんです。いやその、面白いよ! という噂はかねがね聞いていたんですが、どうにも読めない事情がありまして。
読んだら最後、小説を書き上げられなくなってしまいそうだったので……。
山口 その小説というのは、今回刊行なさった『げいさい』のことですか?
会田 そう。これはここ4、5年のあいだ時間を見つけては書き継いできたものです。書き始めた頃からチラホラと『ブルーピリオド』の評判は僕の耳にも入ってきていまして。インターネット上でも大絶賛されていたし、美術業界界隈での人気も上々だった。僕が所属するミヅマアートギャラリーのスタッフも絶賛してましたね。
これはヤバイな……(笑)。存在を知ったときは正直そう思いました。だって僕が書いていたのも美術予備校生の話で、『ブルーピリオド』の世界と丸被りですから。先にやられた、どうしよう……、と途方に暮れていた。
小説を書き終えるまで我慢した
山口 知っていてくださったというだけでも感激です! 私たちからすれば美術を学び始めた頃から、「会田誠」という作家の名と作品は、当然いつも耳にして憧れてきた存在。そんな方とネタ被りになれるとは(笑)。同じ感覚を一部でも共有できていたのかと思えばうれしいかぎりです。
会田 僕のほうとしてはとにかく、自分の小説が完成するまで読むのは絶対やめておこうと決めた。だって読んでしまえば、きっと影響されるし、最悪書く気が起こらなくなってしまう。
それで書き終えるまで我慢して、最近ようやく読ませてもらいました。いやあ面白いですね。なにしろ「マンガ大賞2020」大賞受賞作ですから、漫画として面白いのは当たり前なんですが。
似たテーマで小説を書いた僕としては、独特の心の動かされ方もしました。ここは自分の小説と同じだとか、ここはすごく違うとか、いちいち異同を確認してしまうというか。