ともに芸大をめざす青春群像を描いた2作、会田誠さんの小説『げいさい』と山口つばささんのコミック『ブルーピリオド』(第1話はこちらから)。山口さんは『げいさい』の中で惹かれたのは、「デッサン・マシン」こと天才肌でクールな小早川。一方、会田さんも『ブルーピリオド』では、卓抜した技術を持つある登場人物に共感を覚えたという……。

前編を読む】

(構成=山内宏泰)

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漫画を描くときはアドレナリンが出る?

山口 『げいさい』の登場人物の中で会田さんに近いのが小早川くんということになると、『ブルーピリオド』で近いというか、共感できるのは……。

会田 それでいうと高橋世田介くんですね。彼は小早川に近いタイプでしょう?

山口 たしかにそうです!

会田 主人公の矢口八虎くんは、もともとリア充なタイプだからなあ……。僕と似ているとは言えないですね。

会田誠さん ©文藝春秋

 そういえば八虎くんは、東京芸大の試験に臨むシーンで、描いているとだんだんのめり込んでいって「ペインターズ・ハイ」みたいになりますよね。競技中のアスリートのようになって、集中していく。あの感覚、ちょっとはわかるんです。僕はアーティストとしてデビューしてからも、それほどグイグイ描いてアドレナリンを噴出させるタイプじゃないので、あまりペインターズ・ハイにはなりませんが、知っていることは知っている。

 山口さん自身はどうなんでしょう? 美大受験のときにペインターズ・ハイを体験したりしたから、ああいう描写ができるんですかね。それとも、漫画を描くときはアドレナリンが出るんでしょうか?

ついに芸大の油画からマンガ大賞を取るような漫画家が!

山口 ペインターズ・ハイという言葉は『げいさい』に出てくるものですよね。二朗くんが芸大の二次試験で体験する特別な状態……。いや、うらやましいです。外部の音が聞こえなくなったりして、すべてを忘れ完全に集中できてしまうんですよね。私はそういうのを体験したことがないので。

会田 そうか、漫画は絵画を描くのとはずいぶん違うものなんですね。僕も以前に『ミュータント花子』という素人臭い漫画作品を描いたことはあるんですけど、作業は淡々としていたかもしれない。『ブルーピリオド』みたいにメジャーな漫画とは雲泥の差で、「ガロ」以下みたいなアングラ作なんですが……。

 そう、だから山口さんの活躍を見て何より感慨深いのは、ついに芸大の油画からマンガ大賞を取るような漫画家が出るようになったのか! ということなんです。在学中から、芸大や美大受験を題材に漫画を描いてやろうと思っていた?