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「君は入る大学を間違えたね」

山口 いえ、それは全然なかったですね。ただ、漫画家になりたいという気持ちは、在学中からずっとありました。私の場合は、絵画科の油画専攻に入ったというのに、すぐに絵画をやっていくモチベーションがなくなってしまった。油彩画はひとつ作品を完成させるのにもたくさん時間がかかるから、だったらそのエネルギーを本当にやりたい漫画に注いだほうがいい。そうじゃないと油絵を真剣にやっている人にも失礼じゃないかなと思いまして。

山口つばささん ©文藝春秋

会田 僕が芸大に通った1980年代も漫画の人気は高くて、みんなアトリエで「週刊少年ジャンプ」や『AKIRA』を読んでいた。でもそれは美術と切り離して考えるのが基本で、油画の講評会で漫画の原稿を出すなんて絶対にあり得なかったものです。

 僕も試してみたことはあるんですよ。大学2年のとき、油絵でヌードを描く課題が出た。そこでモデルの顔を少女漫画風にして、手がなぜか4、5本あるという挑戦的な絵を描いて講評会に出した。と、教授はひとこと、

「君は入る大学を間違えたね」

 それだけ言い残して通り過ぎていきました(笑)。少しでも漫画的なものを出そうものなら基本的には無視、そんなことを続けるようなら退学届けでも出せという雰囲気でした。

山口 そうなんですね。そこは時代が変化してよかった。私は結局、講評会ではいつも漫画を出し続けることにしていて、なんとかそれが許されていましたから。

会田 かなり変わってきたものだよね。僕も1年間だけ東京芸大の非常勤講師をしたことがありますけど、講評会に漫画的なものを出してくる人はたしかにいました。むしろ先生の側が、そうした作品をどう評して指導すればいいかわからず、対応しきれていない印象です。漫画・イラスト系をちゃんと見ることのできる先生を雇えばいいのにと思いますね。