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自由って、本当に扱いづらいものですよ

会田 それで美大の教育も、ハナから矛盾を孕むことになってしまう。『ブルーピリオド』でも描かれていますよね、大学に入るためにはデッサン力が必要とされて訓練させられるのに……。

 生徒も先生も困っているし、実際に美術作品をつくっているアーティストだって大きな困難を抱え込んでいるんです。いくら批判や怒りを向けたって、どうすればいいかという解決策は見えてこないし、かといって17世紀に戻るわけにもいかない。

「自由に絵を描きなさい」という言葉を軸に小説を展開させていこうというのは、僕を含めて今世界中の美術界が直面する問題が、そこにたっぷり含まれていると思ったからです。

©文藝春秋

山口 たしかに自由って難しいですよね。漫画もそうで、商業作品を描く漫画家ってかなり売れてる人でも、自分で描きたいことなんて別にないという人はたまにいらっしゃいますね。描くこと自体が好きなのでいいんだ、という。

 エンターテインメントとして成立させなければならないから、自由ばかりを唱えているわけにもいかないけれど、そのつど、悩みながら進めるしかなさそうです。

会田 そこへいくと僕がふだんいる現代美術の世界は、画材に何を使ってもいいし、展示だって好きにすればいい。なんなら作品を天井に飾ったってまったく問題ない。とことん自由な業界です。でも常にそういう世界にいると、それはそれで疲れてしまう。僕がたまに漫画や物語をやりたくなるのは、その反動かもしれませんね。

 僕には案外、形式主義者の側面がありまして、そちらの欲求を満たすために小説では、お行儀がよく起承転結のある話をつくることになる。主人公が誰かわからなくなるメタフィクションのような作品は書く気が起きないんです。そういう形式破壊や実験は美術の方でさんざん試して、疲れてますから。いやあ自由って、本当に扱いづらいものですよ。

山口 これだけ長く創作し続けてきた会田さんでも、そうやってもがきながらつくっているものなんですね。

会田 そりゃそうですよ。そうしたつくり手側の「惑い」みたいなものも含めて、現代美術も漫画も小説も、楽しんで観てもらえたら何よりですね。

げいさい

会田 誠

文藝春秋

2020年8月6日 発売

ブルーピリオド(1) (アフタヌーンKC)

山口 つばさ

講談社

2017年12月22日 発売

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