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「美術館に行くたび疎外感があった」平成生まれの芥川賞作家・遠野遥さんが“小説を書くこと”を選んだ理由

『破局』芥川賞受賞インタビュー

2020/07/18

 長身痩躯、細身のスーツを着こなして、長めにした前髪の奥から眼光を覗かせる――。

 実力派若手俳優のひとり? 人にそう思わせるような存在感を放つのが、『破局』で第163回芥川賞を受賞した遠野遥さん。

 受賞の報せが舞い込んだ直後におこなわれた記者会見では、 

「(受賞という事実に)頭が追いついていない状況です」

 としつつも、

「(新人賞を同時受賞してともにデビューした)宇佐見りんさんにはLINEで伝えました。受賞の連絡を入れた相手はまだ他にはいません。喜びは、誰かに伝えるものじゃないと認識しているので」

 と、記者たちに向けて、浮わついたところのないクールな対応を貫いた。

 まだ30歳にも達しない若さで、このものごとに動じぬ堂々たる態度。これはもともとの性向なのか……。

平成生まれ初の芥川賞作家となった遠野遥さん

作品のことを思って、喜びは控えめに

 翌日にお話を伺うと、「会見のときは、本当に思考が追いついていなかった」ので、傍から見ると落ち着き払っていると思えたのかも、とのこと。

 でも、それだけじゃない。作品世界を守るため、受賞ごときで舞い上がらないようにしている面もあるという。

「『受賞しましたー!』なんてはしゃぐのは、作風に合わないといいますか。作品を読んでいただいた方は、作者が受賞で騒いだりしていたら、違和感を覚えるんじゃないか。作者が作品の邪魔をするわけにはいきませんから」

 作品と読者のことを第一に考えての、控え目な反応だったわけだ。

 ただ、もともと地に足を着けたタイプであるのはたしか。祝いの連絡が途切れず周囲はざわつきを見せるも、本人の心境や行動にさほどの変化はない。

 

「具体的な変化は……。自分のTwitterアカウントのフォロワー数が、一晩で倍になったことくらいですかね」

 しばらく取材対応などに追われることはあれど、執筆ペースを変えるつもりはない。

「平日の夜、それと週末に集中的に書いています。以前から飲みに行ったり人と会ったりすることはそれほど多くないので、小説のための時間はなんとか確保できていました。これからも生活サイクルは大きく変わらないはず。受賞した『破局』はまだ2作目。もっとたくさん書きたいので、まずは次作を着実に書き進めていきたい」