――このたびは第162回直木賞受賞おめでとうございます。昨日の受賞記者会見では「昔のドッキリカメラみたいなものじゃないかという気がする」とおっしゃっていましたが、一夜明けて、受賞の実感はわきましたか。
川越宗一(以下、川越) まだわきません。昨日は発表までじっと待つしかなかったので、じっとしているうちに、世界がぐるっと変わったみたいな感じです。
――受賞の連絡はどこで待っていたのですか。
川越 文藝春秋の会議室で、担当編集者と待ってました。お店でもよかったんですけれど、大勢の人をお呼びして待つのは恥ずかしいというか、落ちた時にどんな顔をしたらいいか分からないと思ったので、「なるべくひっそり待ちたいです」と言ったんです。
――昨夜や今日お召しのジャケットは、実は編集者から借りたものだそうですね。ご用意されていなかったのは、受賞すると思っていなかったからですか?
川越 あまりガチガチの格好でないほうがいいのかなと思って。そうしたら担当編集者に「ジャケット持っていないのか」と言われました。よう考えたら、大人やったらそれくらいの用意はしておくべきでした。
――昨夜は記者会見の後、選考委員の方たちに挨拶し、その後祝勝会だったわけですよね。
川越 会見では頭が真っ白でした。選考委員の方々へのご挨拶も、神々の宴に呼ばれるようなものなので本当に緊張しました。自分が何を言ったかは全然覚えていないんですけれど、神々のはずなのにこんな僕みたいなもんを温かく迎えいれてくださって、「おめでとう」「おめでとう」と言ってくださって、お話ししやすい雰囲気で。そこに感動しました。
その後は編集者たちとお酒を飲みましたが、緊張が続いていたので味はあまりわからなかったですね。でも、なんか妙にはしゃいでいた気はします。
「新しい趣味を」という気持ちで小説を書き始めたが……
――デビューして1年半。受賞作『熱源』が第2作目という、異例のはやさでの受賞です。しかも、小説を書き始めたのは数年前、30代後半だったそうですね。
川越 新しい趣味をなにかやろうという、ジョギングを始めるようなふんわりした気持ちで小説を書き始めたんです。小説なら文字を書くだけでいいから人もお金も使わずにできるという、なめた気持ちがありました。
それを完成させて松本清張賞に応募したら落選して、その時にすごく悔しかったんですよね。僕、あんまり悔しいと思うような情熱的な人間ではないので、ああ、自分はこの題材にこれだけ愛着があったんだと気づいたというか。自分が頑張らないとこのテーマは一生世に出ないと思って、そこから本当に頑張って改稿してもう一度松本清張賞に応募して、受賞しました。
――その受賞作が、『天地に燦たり』という、秀吉の朝鮮出兵の時代の東アジアを舞台にした力作です。いきなりこんな大きな物語を思いついたのですか。
川越 昔から、こんな話を映画とか小説とかドラマとか漫画にしたら面白いだろうな、とコンテンツを考える癖があったんです。小説を書こうと思った時に考えていたコンテンツの中でとくに書きたかったのがふたつあって、その片方が『天地に燦たり』で、もう片方が『熱源』になりました。