「キャバクラやクラブのような夜の街の店も、存在を抹殺する必要はありません。これまでのような濃厚接触はできないですが、営業しています。お客さんは記名制ですが実名でなくてもいい。その代わり連絡先は残してもらっていますね」

 日本がこんなにデジタル後進国になっていたとは――。新型コロナウイルス対策の混乱で、多くの日本人が痛感したこの事実。一方で、わずか3日間でマスクマップを開発するなど、デジタルを駆使したコロナ対策で世界の注目を集めるようになったのが台湾だ。それを管轄するデジタル担当大臣が、39歳のトランスジェンダーであることも注目を集めた。

 冒頭の言葉の主こそその人、台湾のデジタル担当大臣オードリー・タン。「夜の街」を敵視するような発言を繰り返してきた日本の政治家とは、ずいぶん違った印象ではないだろうか。

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台湾のデジタル担当大臣オードリー・タン(写真提供:オードリー・タン)

 本日9月24日発売の『週刊文春WOMAN』2020秋号では、ミュージシャンの岡村靖幸がホストを務める対談連載「幸福への道」に、オードリー氏が登場。台湾のコロナ対策の裏側から、自身の生い立ち、幸福論、AIの可能性まで、縦横無尽に語っている。

 台湾のコロナ対策の成功については「中国とつねに臨戦態勢にあるから、国家の管理に対して人々の抵抗感が少ないのではないか」という意見も日本では聞かれたが、オードリー氏はきっぱり否定する。台湾人には、1947年から約40年間続いた「白色テロ時代」(戒厳令下で、国民党政府が反体制派への政治的弾圧を繰り返した時代)の過酷な記憶が今も鮮明に残っているため、国家の管理への抵抗感が強いのだという。

「例えば、今のSNS社会において、インターネットでの中傷など、ひどい言葉があふれているときに、『取り締まろうよ』とか『法律を定めて、それを禁止させてよ』という意見が出るんですが、そうなると必ず誰かが、『え、じゃあ白色テロの時代に戻るのか』と。戒厳令の話が持ち出されると、みんな黙るわけです。もう絶対にあの時代には戻れない、戻りたくない、民主的な社会を目指すべきだと」

 また現在、世界中でテーマになっているのが、マスク生活などによるコミュニケーションの変化だ。他人と接触することに不安を抱くようになると、人間のコミュニケーションや恋愛は委縮してしまうのではないか。こう危惧する岡村が「コロナは人間の恋愛のカタチを変えたと思いますか?」と質問すると、オードリー氏は興味深いエピソードを披露する。

対談連載のホストを務める岡村靖幸 ©杉山拓也/文藝春秋

「コロナが広がった当時、台湾のコロナ防疫センターの記者会見で、ジャーナリストから『75%以上のマスク率を達成するには、例えば恋人同士がいちゃいちゃしたいときはどうなるんですか?』という質問が出たんです。すると、センターの指揮官が、「いや、マスクをつけても、普通にいちゃいちゃできるんじゃないですか」って(笑)」

 続けて、未来をこう予測してみせた。「これからの世の中はニューライフスタイルに従い、生き方を変えていかなければなりませんが、やりたいことはやっていい、ただし、やり方が違うんだよ、ということになると思います」

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