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なぜ2020年のジャイアンツは強いのか? 一冊の本で振り返る

文春野球コラム ペナントレース2020

2020/10/20
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 1989年6月8日大洋ホエールズ戦。3-3で迎えた延長12回表2アウト。あと1アウトで巨人の勝ちがなくなるこの局面で決勝打を放ったのは、途中出場の上田和明だった。代走や守備固めでの起用が多かった上田は、自分の打席には代打がおくられるだろうと思い込んでいたため、守備用シューズのまま打席に入る。結果は、欠端光則からプロ入り第1号となる決勝ホームラン。スパイクを履いていなかった上田は、打った直後、打席で足を滑らせる――。

 今季文春野球の“巨人軍監督”をつとめる伊賀大介氏から、寄稿依頼の連絡があった時、思い浮かべたのが約30年前のこのシーンだ。それまでは一巨人ファンとして、また伊賀氏の友人としてこれまでの“戦況”をオーディエンスとして見守ってきたわけだが、まさか自分に“打席”が回ってくるとは。スパイクに履きかえる時間はない。上田のように足を滑らせながら、低めのボールを上から遮二無二叩いてみようじゃないか。

 それにしても今季の巨人軍である。すでに10月も下旬となり、2年連続優勝は目前。その戦いぶりには目を見張るものがあったし、原監督の采配や続々と現れるヒーローに快哉を叫ばなかったファンはいないだろう。

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 さて、その要因は――。それについては、一介のファンが大上段に分析することは避けたい。シーズン終了後に、評論家や専門家がさまざまな意見を交わすことだろう。

 そこで本稿では、今季開幕直前に発売された一冊の書籍を足掛かりに、2020年シーズンの巨人について、あくまでファンの立場で振り返ってみたい。

『令和の巨人軍』で振り返る2020年の巨人の戦いぶり

 その書籍は、文春野球でも初代巨人担当として日本一の栄冠を獲得したプロ野球死亡遊戯こと中溝康隆氏の『令和の巨人軍』(新潮新書)。タイトル通り、巨人軍の現在進行形の姿を当代一のウォッチャーである中溝氏がレポートしたものだ。以下、4か月前に刊行された『令和の巨人軍』と、令和2年のジャイアンツの戦いぶりや選手の活躍を比較、いわば”答え合わせ”を試みてみたい。申し遅れたが、本稿の筆者は『令和の巨人軍』の担当編集である。

1.どん底の巨人に現れた若き4番打者

 岡本和真。2018年、高橋由伸監督が4番に抜擢すると、見事期待に応えて史上最年少の3割30本100打点を達成。翌年も31本塁打を打ち、今季も本塁打王と打点王の2冠を射程にとらえている。『令和の巨人軍』では、「高橋由伸監督は過渡期のチームを引き受け、3年間で一度も優勝はできなかったが、最後に腹を括って4番岡本を育てた。大げさに言えば、己のクビと引き換えに大きな遺産を球団に残したわけだ。その事実は忘れないでいたい」とある。11年ぶりのBクラス転落など苦しんだ数年間だったが、決して無駄な時間ではなかったのだ。「由伸の大いなる遺産」にまずは感謝したい。

岡本和真 ©時事通信社

2.令和の原辰徳

「監督としては、あらゆるものを手に入れてきた。(略)やり残したことと言えば、前回退任時に由伸に丸投げする形になってしまった反省からの、自身の後継者育成と次の指揮官に託すチームのベース作りだろう」と『令和の巨人軍』にはあるが、今季のタツノリの“神采配”ぶりについては説明不要だろう。コロナの影響で過密日程を余儀なくされるなかで、緻密なパズルを組み立てるかの如く、細心の注意と大胆な決断でオーダーを構成し、チームを首位独走へと導いた。

 中溝氏が指摘する「自身の後継者育成」については、その一番手である阿部二軍監督を、9月16日から一軍ヘッドコーチ代行に。阿部の助言によってスタメン起用された若林は、今季1号に猛打賞と期待に応えた。ファンを沸かせたこのアングルからも、タツノリが“その先”を見据えていることは明らかだろう。

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