メットライフドームの秋は短い。この夏も「蒸し風呂ドーム」の俗称通りに暑かった。そして10月には早くも防寒具が出番を迎える。快適に過ごせたのは、9月のうちでもわずかのあいだだった。
そんなメットライフドームだが、今年の9月は例月と様子が少し違って見えた。座席で居眠りしている人を毎試合のように目にしたのだ。先日はファン歴の長そうなお父さん。昨日は仕事帰りのサラリーマン。今日は家族連れの男の子……。
いくら涼しくなったからって、そんなに球場で寝るかね? コロナ禍のなか、せっかく狭き門のチケット争奪戦をくぐり抜けたのに、なんてもったいない!
……と、怒るに怒れない理由がある。自分自身、ちょいちょい寝てしまうからだ。特に、勤務する老人ホームの夜勤明けの日などひとたまりもない。9月だけで何度も居眠りしてしまった。
お尻に感じる愛情と嫉妬
秋のメラドはどうしてこんなにたくさんの人に居眠りさせるのか? 筆者のなかでは、おおむね察しがついている。
今年からリニューアルされた座席だ。来場した人たちがこぞって称賛の声を上げる座り心地なのだ。「ハマスタではお尻が痛いが、メラドは痛くならない」と、坐骨神経痛持ちの横浜ファンの知り合いも驚いていたほどである。
メットライフドームでは昨年から約180億円規模の大規模改修が行われている最中だが、所沢移転以来のライオンズファンで、昨年はホームゲーム全試合を観戦した筆者に言わせれば、この座席は本拠地史上「最高傑作」と言っても過言ではない。
座席が最高傑作? そんな地味なものが? そう思う人も多いだろう。
新しいグッズショップは広くておしゃれ。おまけにガラス窓が突然モニターに早変わりして映像が流れ出す仕掛け付き。室内練習場には見学エリアができたし、カフェは冷暖房完備だ。どれも華々しくて、見ているだけでも楽しい。そんな施設に比べたら、確かに座席は地味に映るかもしれない。
しかし、筆者は新しい座席に腰を落とすといつも、お尻への愛情をひしひしと感じている。それはもう、感心を通り越して嫉妬すら感じるほどだ。
何を隠そう、筆者は「お尻のプロ」だからである。
メラドの新しい座席に座るたび、座り心地に大満足すると同時に、介護福祉士として働く自分は激しい妬みを抱いてしまう。なんで、こんなに凄い椅子が野球場などに設置されているのか! 老人ホームにこの椅子があったなら、たくさんのお尻の問題が解決するのに……と。