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いつ試合を見ても彼が4番にいた

 でも、そもそもそんな「穴」の話題を出さなくてもよかったのは、新たな4番が出てきたからだった。もちろん期待はしていた。それでもいくら期待をしていたからといって、9位指名の選手がこんなに早く、こんなに重大な責任を負って、というところまでは想像できなかった。

佐野恵太と筒香嘉智

 今年の彼の貢献はこれだけしてくれれば充分、の200倍くらいのものだった。安定感、数字、良い所で打つという印象はもちろん、その素晴らしさは「離脱がない」ということだ。この短いシーズン、いつ試合を見ても彼が4番にいた。繋ぎの4番とかなんとか言われながら、それでも大きな怪我なく活躍してそこに居続けること。1年を通じて一度も4番から外れなかった打者は、ベイスターズにとっては2011年の村田さん以降出てきていない。ブランコさんにも、ラミレスさんにも、筒香選手でさえも為しえなかったことだった。

 三塁上で肩を抑え、彼はどんなにか悔しかったろう。

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 チームに戻れる見込みのないまま今シーズンを終えることになった彼は、日本中、いや世界中のスポーツが非常に困難に直面している年に、キャプテンで4番打者になった。日程的に、決して大きな記録が生まれやすいとはいいがたい今シーズンに誕生した横浜のキャプテンは、大きな故障や疫病の困難に立ち向かい、いなしながら、シーズン完走前になってその場にいることのできない状況にある。彼は今、何を思うだろう、悔しさに打ちひしがれているかもしれないし、あるいはもう来年を見据えているかもしれない。私たちは、怪我なく引き続きお願いします、と祈るしかない。

 筒香選手も石川選手も、キャプテンになったシーズン最初のときは一部の(これも親御さん的な)ファンから「大丈夫かな」という不安を抱かれていたんだろう。ところがどっこい、このキャプテンたちが本当に立派に務めを果たしたのを、私たちは知っている。4番もエースもクローザーも、そのポジションが人を育てるのだと、つくづく見ていて思う(やはり親御さんメンタル)。今年はその石川選手がチームを離れるという話も出ている。時代は動いていく。

「ドラフト最下位」のキャプテンが活躍した今年、彼の無念の裏でドラフト会議が行われた。横浜の1位指名は、彼の大学の後輩、入江投手。投球イニング数は決して多くはなく完投型とはいいがたいけれど、バッティングセンスがある。個人的には是非先発で行ってほしい。

 チームが何位になるかはこのコラムの納期までにはまだわからない。それでも私たちは心の中で壮大なファンファーレを伴って、このすばらしいキャプテンの誕生を寿ぎたい(あんまり関係ないかもしれないが、なんで須田幸太さんは「がんばれがんばれスダコータ」だったのに、佐野恵太選手は「がんばれがんばれケータ」なのだろうか)。

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