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「右方向への強い打球」をもう一度打てるように

 井口選手の当時の思い出といえば状態が万全ではなかったこと。シーズン終盤の千葉でのゲームで走塁中に足を捻挫。登録を抹消され、なんとか日本シリーズに間に合わせたものの、打撃でまったく力が入らない状態だった。第5戦を終えて5試合で3安打、1打点。だから逆王手をかけられて迎えた6戦目に意を決した。「もうこれで最後だから、足をもう一度痛めてもいいという覚悟で挑んだ」と足首をかばうためこれまではハイカットのスパイクを履いていたが、シーズンに愛用をしていた通常モデルに戻した。再発覚悟で動きやすさを追求して挑んだのだ。

 6戦目が2安打1本塁打2打点。そして3番セカンドで出場した7戦目。試合を決める特大の2ランを右翼に運んだ。右打者とは思えない強烈な右方向への当たりだった。当時、タイガースの選手が「セ・リーグでは見たことがないようなスイングと打球だった」と驚嘆したほどだった。悠々とダイヤモンドを一周する姿が美しく、輝いて見えた。

「今年は自分らしい右方向への強い打球が打てていないので引退試合ではそういう打球を打てるようにしたい。二軍でそういう打球を追求して練習をしている」

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 現在、引退試合に向けて二軍調整中の井口選手は取り組んでいるポイントをそう語った。8月27日、かつての本拠地・福岡ヤフオク!ドームでの試合後に井口選手は「若手にチャンスを与えてあげて欲しい」と首脳陣に要望し、一軍登録を抹消。今は若手選手に交じり、ロッテ浦和球場でバットを振り続けている。「今、取り組んでいるのは右方向への強い打球」と言われて、思い出したのはやはり03年のあの強烈な当たりだった。当時、まだ20代だった自分は青春真っ盛り。今、振り返るとガムシャラにただ全力疾走をしていた日々だった。

 井口資仁内野手は9月24日のファイターズ戦(ZOZOマリンスタジアム、14:00試合開始)をもって現役生活に別れを告げる。その現役生活を振り返る時、自分の青春時代の思い出も一緒にフラッシュバックしてしまうのはきっと自分だけではなく、ファンの皆様も一緒だろう。もう一度、井口資仁の右方向への強い打球を見たい。そして40代になった自分が、まだまだ若いヤツに負けないという勇気をもらいたいとひそかに思っている。いろいろな人のいろいろな想いを胸にその日は近づいている。

引退試合ロゴ 千葉ロッテマリーンズ提供

梶原紀章(千葉ロッテマリーンズ広報)

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