今、暮らしている京都市内には超・大型店から個人経営のお店、別業種の一角を間借りしている出張所風の店舗まで数限りなく本屋さんがあります。古書店も点在していて、通りすがりに商売っ気のまるでなさそうなお店にえいっと足を踏み入れることも。とにかく新たな本との出会いに事欠かない、本の楽園です。

本上まなみ(女優・エッセイスト)

 さて、この原稿執筆時は休暇で四国を巡っていました。旅先での読書はまた格別、本と温泉と濃い緑、青い空と共に過ごした数日間でした。

 まずはずっしりとした重みが頼もしい小説『かがみの孤城』。いじめが原因で不登校になってしまった主人公の女子中学生〈こころ〉が、ある日突然、部屋の鏡から不思議な城の内部へと誘われ、同世代の少年少女六人に出会うことから物語は始まります。七人の交流が深まるにつれ、それぞれの抱える苦悩が明らかになっていき、自分たちが城に招かれた意味を推理し始める……。

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 ファンタジーやミステリーの要素を持ちつつ、登場人物の痛みに寄り添い、希望へと導いていく展開は『ツナグ』などの小説にも通じますが、辻村さんの作品の根底にある、人間に対する慈愛の心にいつも私は救われる思いがします。今作も現実世界に居場所をなくした登場人物たちが、孤城という特殊な空間で友情を育み、力を得て、自分と仲間のための一歩を踏み出す。仲間のために、というところがやっぱり泣けてしまうんですよね。小さな歯車がカチリカチリと組み合わさって大きく物語が動き出す終盤まで一気呵成に読んでしまいました。久々に物語に没頭する心地よさを味わいました。

『コドモノセカイ』。「変」で「奇妙」でとてつもなく面白い外国小説をシェアしてくれることにかけては天下一品の、岸本佐知子さんの編訳。子どもが主人公の、十二の短い物語が収められていますが、ひとつひとつが濃密で、ちょびちょび味わっては反芻して楽しみたくなるという、過剰で贅沢な盛り合わせとなっています。たった六ページしかないのにスリリングな展開で終いには切なくって泣けてしまう「ブタを割る」、街のひとたちから忘れ去られた古い図書館を舞台に、館内でひっそりと生活し続ける司書と少女の美しい物語「七人の司書の館」、妄想が果てしなく続くとあっという間に宇宙規模のスケールになってしまうんだなあと、完全に置いてけぼりをくった気分になる「まじない」など。あとがきはエッセイストとしても評価の高い岸本さんの子ども時代の回想があり、さすが! と唸る異端児ぶりでした。

 そして昆虫好きの私の「虫欲」を満たしてくれる『昆虫こわい』

 かなりのびびり屋のくせに虫を見つけるといても立ってもいられなくなる私は、この休暇中も巨大蛾〈オオミズアオ〉に恐る恐る触ったところ、急に顔面に向かって飛んでこられて肝をつぶしたりしていました。

 この本は昆虫学者・丸山さんの、世界のあちこちでおこなわれた昆虫の調査記録であり、失礼ながら若干へっぽこな事態に遭遇しがちである丸山さんご自身の数々の体験記でもあります。正直、好きが過ぎるとこうなってしまうのか……と、読んでいてちょっと引いてしまう部分も含め、面白くて仕方がないのですが、狙った昆虫を採集する苦労、意外なところで希少種に出会えたりもするライブ感、そして私の大好きなツノゼミの話も載っていて、心躍りました。今年、知名度が急上昇した「ヒアリ」など、毒虫の話も充実。カメルーンの森の中で露天トイレをした際にツェツェバエに刺されながらも(アフリカ睡眠病という死ぬこともある病気を媒介するそう)かわいい顔だと褒めたたえるくだりがおかしい。さらには兵隊アリが手袋にびっしり噛みつき、食い込んだ大顎のせいで脱ぐときには手が血まみれになったというこわいエピソードを紹介しつつ、写真はアリ付の手袋を見せて満面の笑みで写っていたりもする丸山さんが見られて最高でした。

 

01.『かがみの孤城』辻村深月 ポプラ社 1800円+税

かがみの孤城

辻村 深月(著)

ポプラ社
2017年5月11日 発売

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02.『コドモノセカイ』岸本佐知子編訳 河出書房新社 1900円+税

コドモノセカイ

岸本 佐知子(翻訳)

河出書房新社
2015年10月24日 発売

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03.『昆虫こわい』丸山宗利 幻冬舎新書 1000円+税

[カラー版]昆虫こわい (幻冬舎新書)

丸山 宗利(著)

幻冬舎
2017年7月28日 発売

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04.『〆切本』夏目漱石、谷崎潤一郎ほか 左右社 2300円+税

〆切本

夏目 漱石(著)

左右社
2016年8月30日 発売

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05.『女の子が生きていくときに、覚えていてほしいこと』西原理恵子 KADOKAWA 1100円+税

女の子が生きていくときに、覚えていてほしいこと

西原 理恵子(著)

KADOKAWA
2017年6月2日 発売

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06.『猫には嫌なところがまったくない』山田かおり 幻冬舎 1300円+税

猫には嫌なところがまったくない

山田 かおり(著)

幻冬舎
2017年1月25日 発売

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07.『日本の覚醒のために 内田樹講演集』内田樹 晶文社 1700円+税

日本の覚醒のために──内田樹講演集 (犀の教室)

内田 樹(著)

晶文社
2017年6月16日 発売

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08.『木のみかた』三浦豊 ミシマ社 1000円+税

09.『古都再見』葉室麟 新潮社 1600円+税

古都再見

葉室 麟(著)

新潮社
2017年6月22日 発売

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10.『こころの子育て』河合隼雄 朝日文庫 540円+税

Q&Aこころの子育て―誕生から思春期までの48章 (朝日文庫)

河合 隼雄(著)

朝日新聞社
2001年9月1日 発売

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