この夏、強い毒を持つ「ヒアリ」の相次ぐ日本上陸を受け、外来生物を巡る問題に一層注目が集まっている。その防除と駆除の最前線に立つ五箇さんが『終わりなき侵略者との闘い』を上梓した。
「国立環境研究所に入所後、初めて出会った外来種がセイヨウオオマルハナバチでした。1992年に農水省の肝煎りで日本に導入され、今やトマトの受粉に必須のアイテムです。農業生産に有用な昆虫が、実は生態系に悪影響を及ぼしかねない。一方で、使用を禁じれば日本の農業が立ち行かない。社会的な二律背反が非常に興味深く、外来種の問題に精力的に取り組み始めました」
環境省の定義で外来生物とは「明治時代以降に日本に導入された生物」とされるが、人の手によって移動させられた生物の歴史は思いの外古い。馴染み深いスズメも稲作文化と共に大陸から到来したという。
「何を外来種とするかは、人間の価値観に大きく左右されます。日本でトキが絶滅に瀕した際に中国からトキを譲り受けて交配させ、遺伝子レベルで残すという国家的な試みが行われました。しかし日本産は老齢で絶滅し、中国産だけが残った。現在、佐渡島に放鳥されているのは中国産のトキで、立派な外来種なのです。誰も異を唱えないのは、トキが“日本の象徴”だからでしょう」
本書で取り上げられる外来生物は、アニメで人気が出たアライグマから、毒蛇駆除のために導入されたマングース、食用目的で輸入された巨大カタツムリなど多岐に渡る。
「外来種の問題は、人間の都合とエゴによって生み出されてきました。外来種は在来種に危害を加える悪者という文脈で語られることが多いけれど、最も悪いのはそれを持ち込んだ人間です。日本に導入された経緯を掘り下げることで“人間のしくじり物語”を提示したかった」
では、我々はどのように外来生物と向き合えばいいのか。
「全ての環境問題の根本には、グローバリゼーションと人間の消費社会の加速があり、その法則性を感じてほしい。なぜヒアリが侵入したかといえば、外国から貿易船が盛んに出入りしているからです。かつて人間と野生動物が調和して暮らしていた日本の里山を手本に、外来種に頼らず可能な限り地産地消を目指す。外来種に向き合うことは、我々の生活様式を見直すことでもあるのです」
『終わりなき侵略者との闘い 増え続ける外来生物』
人の手によって本来の生息地から異なる地域に移動させられた数々の「外来生物」を詳細にレポートした1冊。マングースやアリゲーター・ガー等、どのように日本に導入され、定着したのか。その経緯と影響を掘り下げ、外来生物を巡る問題といかに向き合うべきかを説き示す。