『孫正義 300年王国への野望』(杉本貴司 著)

「私が日経新聞に入った2002年ごろ、ソフトバンクといったら、Yahoo!BBを立ち上げてブロードバンドに参入、全国の街角にパラソル営業部隊を投入してNTTに対抗し、いつ潰れるかと噂されていました。実際、当時のソフトバンクは綱渡りだったわけです。ところが、2016年には、イギリスの半導体設計大手のARM社を、日本企業の海外企業買収では過去最大となる3兆3000億円で買収すると発表。まさか、そこかと驚きましたね。いったい孫正義という男は、どんな哲学をもって経営しているんだろうと、以前からの興味が膨らみました」

 そう語る杉本貴司さんが上梓した『孫正義 300年王国への野望』は、1981年に23歳で起業した孫正義が、アルバイトに「いずれ売上高を豆腐のように一丁(兆)、二丁(兆)と数えるようにしたい」と語っていた頃から、彼の会社がまさに数兆円の企業買収をくり返す大企業に成長するまでを描いている。

 とはいえ、本書で描かれるのは孫ひとりではない。ともにソフトバンクの成長に関わった人々の働きにも大きく光を当てているのも類書にない特徴だ。

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すぎもとたかし/1975年大阪府生まれ。京都大学大学院経済学研究科修士課程修了。2002年、日本経済新聞社入社。11年10月米州総局。15年10月より企業報道部。他著に『大空に賭けた男たち――ホンダジェット誕生物語』がある。

「今ではなんでもかんでも孫さんがやったことになっていますけれど、現実には孫さんの周囲には、彼にその気にさせられた人たちがたくさんいました。イメージとしては『水滸伝』の梁山泊。本書では孫さんのほか、70人ぐらい関係者に取材をしていますが、実際、孫さんの人をひきつける力はすごいです。面と向って“お前をやっと見つけた”とか“俺の夢に乗れ”とか、言われたほうは強烈に覚えていましたね」

 孫の在日韓国人としての厳しい生い立ちについて、巻末にもってきているのも、本書の目新しい試みだ。

「孫さんの出生のエピソードは、伝記には欠かせないですし、彼の生き様に重要な意味をもっている。

 私も大阪の母子家庭に育ち、高校を中退したあとは日雇いなど働きながら勉強して京都大学に入りました。そのころ、とにかく自分の置かれた境遇から脱出したかった。だから、孫さんの高校を辞めてアメリカに渡る“脱藩”のエピソードには、強く惹かれています。ただこの本は、いわゆる伝記ではなく、彼の熱い企業経営に焦点をあてたものにしたかったんです。本書を読んで、働いている人、とくに若い人たちが、よし俺もやってやるぞという熱い気持ちになってくれたらと思いますね」

『孫正義 300年王国への野望』
九州福岡で旗揚げし、ソフトウェア、ブロードバンド、携帯電話、半導体設計と次々に主戦場を変えながら、巨大企業へと成長していったソフトバンク。そしていま創業者・孫正義が考えるのは、「この会社が300年続くには?」だという。現役経済紙記者の書いた、孫と彼の大きな夢に魅せられた同志たちの群像劇。

孫正義 300年王国への野望

杉本 貴司(著)

日本経済新聞出版社
2017年6月15日 発売

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