2016年末から全3冊が刊行されている文芸同人誌の「悪友」シリーズ。毎回10名以上の女性たちが自分の「浪費」「美意識」「恋愛」など、普段は言いにくい話について、赤裸々な匿名エッセイを寄稿してきた。アイドル、俳優、声優、同人誌、舞台、コスメ、ホスト……。結局“つながってしまう” SNSでは書けない、「愛の対象」を追いかけてお金を費やしてきた女たちの日々の戦闘記だ。
今年8月10日には「vol.1 浪費」が『浪費図鑑 ―悪友たちのないしょ話―』として書籍化された。この中から、「若手俳優」の“沼”に落ちた20代後半の女性のエッセイを特別公開する。
<プロフィール>
クロコダイルさん(仮名)
20代後半、都内在住、一人暮らし。若手俳優の追っかけをしており、毎週末どこかの現場に出向いてはプレゼントBOXにプレゼントをつっこむ。
初めてのプレゼント以降、彼は私のあげたものをほぼほぼ何でも使ってくれた。
人にプレゼントを贈るのって楽しい。その人が今いちばん欲しいものが何なのかを考えて、その人にいちばん似合うものは何なのかを考えて、インターネットで下調べして、周りの人に相談して、店員さんに色々訊いて、ようやく見つけたプレゼント。丁寧なラッピングをしてもらって、そこで選べるリボンの色ひとつでまた悩んで、手紙を添えた方がいいかな、それとも簡単なメッセージカードだけにした方がいいかな、と悩みは尽きない。考えに考えぬいたプレゼントを渡す当日も、ドキドキしっぱなしだ。この色好きじゃなかったらどうしよう、「実はもう持ってる」なんてばつが悪そうに言われたらどうしよう…喜んでくれるといいなぁ。
でも、私があげたプレゼントの数々を、相手が“本当に”気に入ったかどうかは一生分からない。なぜなら、私がプレゼントを贈り続けている相手は、芸能人…世に言う舞台俳優だからだ。
私が彼のことを好きになったのは約2年半前。彼が出演している舞台を観に行ったら、たくさんの演者たちの中で、彼だけがキラキラ輝いて見えた。私はそれまでジャニーズアイドルのファンをしていたのだけど、ファンからのプレゼント行為が一切禁止されていたジャニーズと違って、俳優にはプレゼントを贈ることができる。それが、自分のファン活動人生の中でもかなり新しいことで、私が彼にプレゼントを贈るようになるまでそう時間は掛からなかった。
一番初めに贈ったものは、5000円くらいのマフラーだった。冬にさしかかる時期だったけど、SNS等で見る彼はいつも首元がゆるっとした私服を着ていたので、「寒そう…」と思ってプレゼントした。下心はなかった。いつも舞台やイベントに行くと、受付付近に設置してある「プレゼントBOX」。カラフルにラッピングされた大小さまざまな袋が無造作に突っ込まれているその箱の中に、私も何か入れてみたい、という、好奇心だけの行動だった。